それは今から三年前の事。
 
雪の降らないある街に、一人の少年が居た。
 
名を、相沢祐一。
 
狼を髣髴させる鋭い目付きと、それを覆い隠すのに十分過ぎるほどの長髪。
 
感情をあまり表に出さない彼の風貌は、何も知らない人が見ればそれなりに気を惹かれるものだった。
 
 
だが。
 
 
その少年は、他人に疎まれていた。
 
畏れられていた。
 
何時の時も、彼に向けられる眼差しは嫌悪と蔑視に満ちていた。
 
理由は多々あるが、一言で言い表すならば彼は不良だった。
 
売られた喧嘩を買う事が、他人に感情を併せる事をしない事が、不良だと言うならばだが。
 
 
かつて、少年は心に深い傷を負った。
 
大好きだった人が、目の前で『消えていく』のを目の当たりにして。
 
自分の無力さを呪い、自分の手の小ささを悔やんだ。
 
この世の全てを怨んだ。
 
幼い身に余る悲しみの思いは、自我の崩壊を避けるために記憶を封印する事を選んだ。
 
楽しかった思い出も、嬉しかった思い出も。
 
傷を癒す為に降り積もった雪は、全てを一緒くたに覆い隠した。
 
白く、白く。
 
 
雪の街を忘れた祐一はしかし、普段通りの生活を送れはしなかった。
 
深層心理に深く刻み込まれた傷は、祐一の心を縛り続ける。
 
大切な人を失う事を無意識の内に恐れた祐一は、そのあまりに人と深く接する事を強く拒んだ。
 
居なければ、失わない。
 
悲しい自衛機能は、その所為でまた新たに祐一を傷つけていく。
 
誰とも馴れ合わないその態度。
 
冷めた視線、媚びぬ目付き。
 
『異端』で在る事は、周囲の反感を買うのに格好の標的であった。
 
従姉妹も、憧れの人も、親ですらも、その心を癒す事は出来なかった。
 
薄く、鋭く、何より脆く。
 
 
 
 
 
その日、桜が乱れ咲く道を俺は歩いていた。
 
何もない生活の中で、何もない毎日を送る。
 
嬉しくも、まして悲しくも無かった。
 
世界はそんなもんだと思っていたから。
 
 
今日の俺は制服だった。
 
珍しく学校に行く気になったのは、確か今日が始業式のはずだったからだと思う。
 
年度の初めくらい、学校に行くのも悪くは無いだろう。
 
ふと時間が気になり、街頭の時計を見てみる。
 
時間は朝の九時。
 
完全に遅刻確定だった。
 
ため息をつき、たらたらと歩く。
 
だが、別に遅刻確定だからってゆっくり歩いているわけでもない。
 
ただ別に、時間通りに学校に行く気もしなかった。
 
 
何時からこんな生活をするようになったのだろう。
 
何をしてもつまらない。
 
情熱を持てるものが見つからない。
 
まるで抜け殻のような毎日を。
 
 
スポーツもやってみた。
 
そこそこ上手くはできていたようだが、どうでもよかった。
 
部活を辞める時に顧問や部活の奴らが俺を止めた。
 
口々に『やめるな』と言っていた。
 
『それだけ才能があるのにもったいない』
 
そうも言っていた。
 
だが俺はなんの躊躇いも無く部活をやめた。
 
『才能があるのにもったいない』
 
裏を返せば、才能が無い俺は要らないって事だろ。
 
俺が必要なんじゃなくて、俺の才能が必要なだけだろ。
 
そんな思いと共に俺は部活をやめた。
 
 
夜の町を単車で暴走もしてみた。
 
自発的ではなく誘われるがままの行動だったが、今更それを言い訳する気にもならない。
 
いつのまにか総長と呼ばれるようにもなっていた。
 
何の事はない、ただ喧嘩に明け暮れていたら周りがそう呼び始めただけだ。
 
実際、以前に総長と呼ばれていた奴にだって従っている気はなかった。
 
従う必要が無かったのだから。
 
直感的に総長と呼ばれている奴が俺を恐れている事もわかっていた。
 
でも俺からは何も行動を起こす事は無かった。
 
勝手に周りの奴らが革命だとか言って前の総長を囲んでいた。
 
どうやらその革命の首謀者は俺という事になっていたようだ。
 
OBの間で、中学生が総長って言うのは色々と問題があったようだ。
 
だが、それすらもどうでもよかった。
 
 
ただ空虚な毎日。
 
何かが足りないような気がして。
 
何かをどこかに置き忘れてきているような気がして。
 
大切な何かを忘れているような気がして………
 
忘れている事すら忘れてしまって………
 
昔からずっと、自分が『何か足りない』人間だと感じていた。
 
それはただの記憶?
 
それとも許されざる罪?
 
その事を考えると、妙に気分が悪くなる。
 
思い出せないってことも気分が悪い。
 
だから俺はいつも、全てをこの一言の元に投げ捨てる。
 
 
『どうでもいいよ』
 
 
疎まれるとも、蔑まれるとも。
 
世間や他人の全てが意味の無いものに思えて。
 
俺はまた、独りで桜並木を歩き出した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
Stand by Me 〜 Another story 〜
 
 
その一 『三年前』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「おら!! 黙って金出してればいいんだよ!!」
 
がっ!!
 
 
殴られたほうの男の眼鏡のレンズが割れて飛んだ。
 
これは喧嘩とは違う。
 
世間的にはかつあげと呼ばれる行為。
 
朝の公園でそれは行われていた。
 
桜の舞う美しい風景とは対照的なその行為だったが、そもそも風情を感じるような輩はかつあげなどしない。
 
殴っている方の不良は金髪のロン毛。
 
見るからに不良である。
 
こういう言い方をすると金髪がすべて不良だという語弊を生じるかもしれないが、この場合は完璧にその方程式が当てはまっていた。
 
殴られているほうの男の顔は恐怖に脅え、ポケットから財布を出し、不良に渡そうとしていた。
 
力の無いものは、その代償となる物で自らを守るより他は無い。
 
理不尽な様だが、歴然とした真理でもある。
 
だが、差し出された財布はまったく関係の無い方から横取りされた。
 
まったく予想しなかったその事態に不良は激昂する。
 
 
「てめぇ……何しやがる!!」
 
 
その財布を受け取った男、相沢祐一は不良の怒りに身じろぎもせずに立っていた。
 
長い前髪と、どちらかと言えば華奢な体つき。
 
桜の舞うその中に立っているだけなら、十分に人目を惹き付けるものがある容姿だった。
 
だが、今の状況はそんなに呑気なものじゃない。
 
どちらかと言えば危険な方に位置している。
 
にも関わらず、祐一はきょとんとした顔をしながらさも当然の如くこう言い放った。
 
 
「なにって? ………差し出された財布を受け取っただけだが?」
 
「ふざけやがって!!」
 
 
不良は、メガネ君にもそうしたように殴りかかってくる。
 
どうやら祐一の事を外見で判断し、容易に倒せるとふんだようだ。
 
まったく……どうしてこうも不良と言うのは頭が悪いのだろうか。
 
半ば呆れにも似た思考と共に、祐一はその拳を右手でやすやすと受け止める。
 
そして殺気を込めた目で不良を睨み、怒りの声を上げた。
 
 
「ふざけてんのはテメェだこの野郎!!」
 
 
受け止めた相手の拳を放すと同時に自分の右拳を鼻面に叩き込む。
 
鼻に打撃を受けると、一時的に涙腺が緩み視界が歪んで戦闘不能になる。
 
それ以前に、単純に殴られるとものすごく痛い。
 
予期せぬ衝撃にもだえ苦しむ不良の側頭部に、もう一撃肘打ちを入れた。
 
人体で一番硬い骨が直にあたる部分であるだけに威力は強力。
 
二度の打撃で、不良はすでに戦意を消失していた。
 
だが祐一は攻撃を止めない。
 
 
「おう! どっちがふざけてるんだ固羅!!」
 
「ひっ!!ゆるし……」
 
 
ぐしゃっ!!
 
 
地面にへたり込んでいる不良の顔面に蹴りが入る。
 
桜よりも断然に赤の強い飛沫が舞い、状態を仰け反らせた不良が転げまわる。
 
痛みの悲鳴をあげながら。
 
それでも、祐一の攻撃は止まない。
 
つかつかと転げまわる男に近づき、胸座をつかんで無理やり立たせる。
 
自力では立てないほどに脱力している男の顔を自分の眼前にまで持ち上げ、
 
 
「カツアゲなんてくだらない事してんじゃねぇぞ!!」
 
がん!がん!がん!がん!
 
 
顔面に連続で頭突きを入れる。
 
鼻から、口から、額から。
 
頭突きを入れる度に、男の返り血が飛び散った。
 
制服に、頬に、手に、口に。
 
それでも祐一は攻撃をやめない。
 
頭突きの位置よりも少し遠くに男の顔を離し、殴る、殴る、殴る、殴る。
 
殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る。
 
 
助けてもらっているはずの被害者も、その光景には恐れ慄いていた。
 
目の前で行われている惨劇に。
 
鬼の如き形相で不良を殴り続ける目の前の男に。
 
 
人目はあるはずだった。
 
時間は朝九時ごろなのだから。
 
通勤中のサラリーマン、子供を遊ばせに来ている主婦、暇な老人。
 
だが、誰も止めようとしない。
 
あるいは警察でも呼んでいるのだろうか、遠巻きに見ているだけだった。
 
怖がりながら。
 
自分が渦中の人間ではない事に少しの安堵を感じながら。
 
誰も自分から危険な状況に入ろうとする奴はいなかった。
 
 
なるほど、賢明な判断だな。
 
祐一はそう思った。
 
俺が見境のないやつだったら止めに入った奴もやっちまうだろう。
 
見ず知らずの、しかもたった今まで加害者だったこのバカを助ける為に危険を侵す必要など何処にも無い。
 
一番卑怯な傍観が、今のこの状況では一番正しい。
 
そう、お前等は間違ってはいない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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なぜかその日は不良を許す気にはなれなかった。
 
普段からカツアゲなんかする奴は許せない性分だったけど、今日だけは何かが違っていた。
 
それは何かが始まる予感だったのだろうか。
 
それとも、終わる予感だったのだろうか。
 
どちらにせよ、今の俺には関係が無かった。
 
 
手を離すと、金髪の男は糸が切れた人形のような姿勢で崩れ落ちた。
 
その無様な姿に、再び嫌悪感を感じる。
 
自分と、相手に。
 
非道い事をしていると言う感情は無かった。
 
ただ、放っておけばこいつはまたカツアゲなんて事を繰り返すんだろうと言う思いはあった。
 
明らかに自分よりも弱いものを狙って。
 
ほんの少し、狙った相手よりも腕力が勝っている優越感に浸りながら。
 
………今までお前は何度『そういう事』を繰り返した?
 
 
黒い思考が湧き上がり、男を立ちあがらせて問い詰め様として距離を詰める。
 
と、その時。
 
まったく不意に、小さな影が俺の前に立ちはだかった。
 
それは、少女だった。
 
肩口くらいまでの髪を両側で青いリボンで結っている。
 
身長はかなり小さい。
 
150cmよりもっと下………148cmくらいだろうか。
 
見た目で判断するに、多分俺より年齢は下。
 
大きくなる事を見越して買ったかのような制服は明らかにサイズがあっておらず、袖のあたりはぶかぶかだった。
 
その幼さに一瞬小学生かとも思ったが、俺の通う学校と同じ制服を着ているところからすると中学生なのだろう。
 
俺と不良の僅かな隙間に潜り込む様に立ち塞がり、倒れている後ろの不良をかばうように両手を広げ、俺を睨みつけていた。
 
 
「やめてくださいっ!!」
 
 
キッと俺を睨みながら強い口調でしゃべる。
 
見た目からは想像も出来ないほど、芯の通った声だった。
 
 
「……なんだお前……」
 
「弱い者いじめするなんて最低ですっ!!」
 
 
びっくりだった。
 
大の大人すら止めに入らないというのに、この少女は止めに入っている。
 
しかも俺の顔をまっすぐに見て。
 
勇敢……って言えば聞こえはいいのかもな。
 
ただの世間知らずの可能性もあるが。
 
って言うか、今こいつはなんて言ったんだ?
 
 
「……今、何て言った?」
 
「弱い者いじめするなんて最低ですっ!!」
 
 
寸分違わぬ言葉を投げかけてくれた。
 
だが、その言葉に俺は納得がいかない。
 
 
「……弱い者いじめ?」
 
「そこの人のことをさっきから一方的に……ひどいですっ!!」
 
 
なるほど。
 
そこまで言われて、やっと理解した。
 
なんて言うか………
 
この不良を殴ってるのを見て、弱い者いじめをしていると勘違いしたんだろうな。
 
まぁそういう風に見られてもしょうがないな。
 
確かに一方的だったし。
 
事の経緯を一から説明しても良かったのだが、なんだか面倒くさくなってやめた。
 
信じてくれるかどうかも疑わしいし。
 
どうせ、この状況なら俺が悪者ってのがセオリーだろうからな。
 
 
「はぁ………だとよ。さっさと消えろこのカスが」
 
 
倒れている不良に蹴りを入れてやる。
 
無論、加減して。
 
言わば気付けの蹴りみたいなもんだ。
 
やっとの事で解放された不良は、びっこを引きながら命からがらに逃げ出した。
 
 
「人のことをカス扱いするなんてだめですっ!!」
 
 
間髪入れずに少女の怒りの声が入る。
 
何があったのかを知らないとはいえ、あまりに一方的な決め付けに少し腹が立つ。
 
俺が『いい人』だから良いとしても、一歩間違ったらこいつもシメられてる所だぞ。
 
そう思った俺は、この無謀な勇気をもった少女のために忠告をしてやる事にした。
 
多少凄みを利かせて。
 
 
「……あんたに長生きの秘訣を教えておいてやる。 『余計な事に首を突っ込むな』」
 
「………」
 
 
小さく目を見開き、俯いて黙ってしまった。
 
あー、ちょっと凄み過ぎたかな?
 
別段フェミニストと言う訳でもないが、少し罪悪感が芽生えた。
 
 
「………でも………」
 
「あ?」
 
「でもっ! やっぱり弱い者いじめをするなんて最低ですっ!!」
 
 
そう言って、少女はその場を走り去っていってしまった。
 
ちなみに、最後の言葉はキーンと耳に残るほどの大声だった。
 
蚊の鳴くような声を聞こうとして耳を近付けていたから、その破壊力は尚更の事。
 
暫くの間痛む耳を抑え、少女が走り去っていった方角をぼんやりと見やる。
 
って言うか、俺と同じ学校ならあいつも遅刻確定じゃないか。
 
あの見た目からして、新入生だろうに。
 
って事は入学と同時に遅刻か? (俺の学校は入学式と始業式を同じ日にやる)
 
ふむ、なかなかの不良学生だな。
 
遅刻はいかんぞ、遅刻は。
 
 
なんて事を考えていたら、不良に殴られたメガネ君が眼鏡を探してうろついていた。
 
さりげなく不良から奪い取った財布を投げつけてやる。
 
よく見たらこいつもうちの学校の奴だった。
 
遅刻確定三人目か。
 
なんて不良学校だ。
 
遅刻はいかんぞ、遅刻は。
 
……言ってみてなんか虚しくなった。
 
 
手持ち無沙汰に呆けていたら、メガネ君が自分の眼鏡を見つけ出して顔に掛けているのが見えた。
 
片方のレンズが割れていたが、フレームは少々歪んでいるだけだった。
 
俺の顔を見て、何か言っている。
 
多分お礼でも言ってるんだろうが、なんか脅えている様だった。
 
まぁそれもしょうがない。
 
さっきの姿をぼやけた視界でとはいえ見ているだろうし、同じ学校なので俺の悪い噂も聴いた事があるんだろう。
 
俺は不良だからな。
 
諦めの念を抱くがしかし、なんか脅えながら話しているその姿がむかついた。
 
 
「……謝ってる暇があったら強くなれ阿保」
 
 
そう言ってそっぽを向く。
 
このままここに居たら殴ってしまいそうだった、足早にその公園を去った。
 
ぷらぷらと桜の下を歩き、何もやる事が無いのに気付いたので、しょうがなく学校に向かう事にした。
 
その途中でふと気付く。
 
 
「ひょっとして俺、悪者にされたままあの女の娘を学校に行かせたのか?」
 
 
悪者扱いされるのは慣れていたが、新たに濡れ衣をきせられるのはあまり好む所ではなかった。
 
それが見知らぬ女の子ならなおさらだ。
 
彼女こそいないが、別にホモな訳ではないので女の娘には好かれる方でいたい。
 
………これだけ不良しといて何を言ってるんだか。
 
自嘲気味に笑ってみたが、後悔の念は拭い去れなかった。
 
どうして。
 
どうしてこんなにあの娘に悪者扱いされる事を拒んでいるんだ?
 
さっきも自分で思っただろう、『どうせ話しても信じてもらえない』って。
 
それ以前に、弱い者いじめがどうとかじゃなくて実際に不良に暴行を加えていただろ。
 
その場面を見て、悪者じゃないだなんて思う奴はいない。
 
現に俺は悪者だったはずだ。
 
でも……
 
くそっ!!
 
訳がわかんねぇ!
 
 
自分の心が判らないと、こうも苛立つものなのだろうか。
 
苛立つ心を吐き出す為に、近くにある桜の木を蹴飛ばした。
 
蹴りの振動が木の幹を揺らし、枝を揺らし、桜が舞い散る。
 
まるで雪のように振ってきた桜の花びらが、俺の視界を遮った。
 
その花の色は輝くほどに瑞々しく、その命がまさに盛りである事を示していた。
 
 
「………悪いな、まだ咲いていられたのに………」
 
 
そう言った祐一の顔は誰もが見とれるほどに優しく、穏やかだった。
 
舞い散る桜にさえ心を移し、悼み、謝る。
 
こんなにも繊細な心の持ち主が不良と呼ばれている事を矛盾と言わずして、なんと呼ぶのだろうか。
 
だが、祐一はこんな表情を誰にも見せない。
 
見せる事が無い。
 
気付いてくれる人もいない。
 
誤解は畏れを生み、畏れは蔑みや嘲笑に姿を変え、それ故にまた誤解が産まれる。
 
誰一人として祐一を理解してくれる人の居ない街で、誤解を解こうとする事も無く祐一は日々を送る。
 
人形の様に、何に心を奪われる事も無く。
 
疎まれるから避け、傷つけられるから傷つけ。
 
断ち所の無い歯車の中で、漂う。
 
だから祐一は孤独。
 
孤独な毎日を過ごしている。
 
 
 
 
 
 
 
それが、相沢祐一の中学二年生の春だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
To be continued……