「なぁ唯」
「ふぇ? 何ですか?」

とある土曜日の放課後。
隣をほえほえした顔で歩いていた唯の顔を見詰めながら、俺は重々しく口を開いた。

「苗字変えろ」

ちなみに『相沢』に変えろとかそう言う意味ではない。
それじゃ思いっきりプロポーズだ。

「え……えぇ? 何ですか唐突に」
「俺がお前にもっと相応しい苗字をつけてやる!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよぅ」
「いいや待たん。 刹那すら待たん」
「じゃ、じゃあどんな苗字なんですか?」

おどおどしながら尋ねる唯。
その顔には、『めちゃくちゃ不安です』と書かれていた。
何故かエスペラント語で。
だがそんな事をも無視して、俺は声を大にした。

「良くぞ訊いてくれた。 お前の苗字は今日からっ!」
「今日から……?」
「緋色だ!」
「ひ……いろ?」
「おう、緋色だ」
「緋色……唯ですか?」
「そうだ! ヒイロ・ユイだ!」

ずばーん! と、効果音が背中に出るような迫力で言ってやった。
この俺の迫力には唯もびびって……ないな。
って言うかちょっぴりジト目で見てる。
その反応は、まるで俺が何を言うか予測していたかのようだった。

「相沢さん……ひょっとして昨日、桜ちゃんと一緒にガンダムウィング見てましたか?」
「な、何故それを……」
「私も先週の日曜日に見せられたんです、ビデオで」
「劇場版を?」
「いえ、TV版を」
「何処まで?」
「全話です」
「………」
「眠ろうとするとぶたれるんですよぅ……寝たら死ぬぞって……」

何をやってるんだお前等は。
先週の日曜の惨劇を思い出したのだろう、唯が少し涙目になっていた。
相当非道い目に遭ったのだろう。
お前も大変なんだな。

「あー……何だ……プリンでも食いに行くか」
「行きましょっか」

何だか微妙な倦怠感に包まれながら、俺たちはコンビニにプリンを買いに行くのだった。
普段よりちょっとだけ高級な『ホルスタインが本気を出した生乳炸裂プリン』を買ってやったことを付け足しておく。