「なあ唯」
「何ですか?」

月曜日の放課後。
週の始めの憂鬱な一日を終え、俺と唯は何時もの様にのんびりとした雰囲気に包まれながら家路を辿っていた。
ぽかぽかと暖かな陽射しが心地良い。
俺の三歩に四歩でついてくる唯の頭を撫でながら、俺はにこやかに尋ねた。

「お前、プリン好きだよな」
「はい」
「そんなに好きか?」
「大好物です」

青空の下で、俺以上ににこやかに答える唯。
本当に好きなんだな、プリンが。
なるほど、そこまで好きなら俺も頑張った甲斐があると言うものだ。
お父さんは嬉しいぞ。

「それはもう死ぬほど大好きなんだよな」
「す、好きですけど?」

やたらと大仰に確認する俺に、唯が少しだけ警戒の色を見せる。
どうやら『世紀末ほえほえ少女』の鈍感なアンテナですら危険を察知したらしい。
だが、もう遅い。

「よし、判った」
「な、何がですかぁ?」
「お前の気持ちはよく判った。 よし、行くぞ」
「え? ど、何処にですか?」
「俺ん家」
「え、えぇ?」
「そろそろ食べ頃だからな」
「た、食べぇ?」

わたわたし始める唯の背中を押し、時には手を引き、ぐいぐいと俺の家まで連れていった。
これはどっちかと言えば拉致に近いとか思いながら。
でも、やっぱりこれは唯の幸せの為なのだからと自分に言い訳をしながら。

んで、家。

「………」
「さあ、食え」
「……はぅぅ」

どーんと言う効果音が鳴りそうなほどの雄大な姿。
リビングにちょこんと座る唯の眼前には、凶器と見紛うほどの大きさのプリンが鎮座していた。
所謂一つの『バケツプリン』
10リットルはあるだろうそのプリンは、然程風の吹かない家の中ですら異様にぷるぷるしていた。
製作者である俺ですらちょっと恐い。

「相沢さん……ひょっとして昨日、TVチャンピオンの『甘味大食い王決定戦』見ましたか?」
「うっ、何故それを」
「私も桜ちゃんと一緒に見てたんです」

ちっ、桜め。
まさか俺と思考回路及び行動パターンが一緒なのか?

「全部食えよ」
「……無理ですよぅ」

涙目で却下する唯。
実は俺も、創ってる最中に薄々は『ひょっとしたら唯が食べきるのは無理なんじゃないかな』とは思っていたのだが。
えーと、あれだ、あの時の俺は久し振りにハイになってたからな。
これを見せた時の唯の反応が見たくて見たくてしょうがなかったんだ。
文句あるか。

結局は二人で一生懸命食べたのだが、それでも半分以上残してしまった。
誰も居ない部屋の中で若い男女が二人、無言でバケツプリンと格闘する様は中々にシュールだった様な気がする。
結論としては、プリンは小さい容器に入っているからこそプリンなんだと思った。

予想通りと言うか何と言うか、次の日に桜の家に呼び出された唯が見た物もバケツプリンだったらしい。
ついでに言えば、唯はその日の夢でプリンに襲われる夢を見たんだそうだ。