「西宮家が無い武家屋敷なんぞ俺は認めないからな」
「そ、そんな事言われても……」
「祐一、文句が多い」
とても天気の良い日曜日の昼下がり。
近所のデパートで催されている『秋田角館があなたの街に! 戦国武将もびっくり武家屋敷フェア』の祭事場に、俺達は居た。
ちくしょう、今日は日がな一日寝て過ごそうと硬く心に決めていたのに。
「……ん? あれは」
きゃいきゃい騒がしい桜と唯から半歩先んじて歩いていた俺は、目の前のソフトクリーム屋に興味深いものを見つけた。
それと同時に驚くべき速さで組み立てられていく素敵な悪戯計画。
砂粒ほどの躊躇いも無く、俺はその計画を実行する為に行動を起こした。
「おばちゃん、桜ソフトクリームくれ。 三つな」
「はいよ」
手渡されたのは、本当に綺麗な桜色のソフトクリーム。
その麗らかなる色艶に、一瞬だけ食べるのを躊躇った。
「桜ー」
「ん?」
「ほら」
投げて渡す訳にもいかないので、形を崩さないようにそっと手渡す。
渡された桜は、ソフトクリームと俺の顔を交互に見て何だか得心のいかない顔をしていた。
「桜ソフトクリームだってさ。 こんなものを創るなんて、やるなお前」
「………うんっ。 凄いでしょっ」
「ふぇ?」
数瞬の思考の後、にこっと笑って頷く。
流石だな、桜。
何も言っていないのに即座に俺の考えを読み取りやがった。
「ほら、唯も」
「あ、ど、どうも」
「うーむ、それにしても綺麗な色だ」
「でしょ? 当然だよ。 言わば私の結晶だもん」
何故か偉そうにする桜。
普段なら即座に突っ込みを入れるトコだが、今だけは違っていた。
むしろそれこそが俺の欲しかった反応だ。
「ぇ? 桜ちゃん?」
「ああ、綺麗だ。 桜。 本当にお前にピッタリだ」
「えぇっ? あ、相沢さん?」
「嬉しい。 ね、もっと誉めて」
「ああ、何度でも。 この色も、香りも、味も、桜じゃなきゃ出せない。 お前じゃなきゃ創れない。 最高だ」
「じゃあさ、ご褒美、ちょうだい」
甘える様に俺の胸に頭を摩り付ける桜。
それに対し、俺は優しく包む様にその頭を撫でてやった。
なでなで。
「ふ、ふぇぇぇぇぇぇっ?」
「どうした唯。 変な声出して」
「どしたの唯。 変な声出して」
「あぅ、えぅ、うぅぅぅぅぅぅっ!」
後日。
図書館で『唯』と言う名の植物を一心不乱に探す少女の姿が見かけられたそうだ。