「お、俺と付き合ってください!」
「…………へ?」

夕暮れ迫る金曜日の放課後。
手紙で呼び出された先の中庭で、私は一人の男子生徒に何事かを言われていた。

「返事は後でで良いんで、考えておいてください! それじゃっ!」
「あ……あー……」

行っちゃった。
しかも猛ダッシュで。
足速いね、キミ。
世界狙うかい?

「………」

違う、そうじゃない。
落ち着け私。
えーと、えーと、今のは世間一般的に言うところの所謂その何と言うか一種の。

「告白……だよね……」
「ああ、少なくとも喧嘩を売りに来た訳では無さそうだ」
「うひゃあぁぁぁっ!」
「……もう少し女の娘らしい驚き方をしろ、はしたない」

びっくりしたびっくりしたびっくりした。
何時の間に隣にいたのさアンタ。
って言うか女の娘の後を尾行てきてしかも盗み聞き?
最低だよさいてーっ。

「人聞きの悪い事を言うな。 そもそも中庭は俺の聖域だ。 勝手に入ってきて中学生日記をやり始めたのはお前等の方だろ」

そー言えば唯が言ってたような気がする。
『相沢さんがお昼からずっと消えたままなんだよぅ』って。
寝てたのね、早い話が。
この不良。

「何とでも言え。 俺は帰る」

すたすたと。
振り向きもせず。
そこで本っ当に帰るからね、アンタの場合。

「……ね」
「ん?」
「どーしよ」
「知るか」

確かに。
私自身、どうして祐一にこんな事を訊いたのか判らなかった。
祐一が『あーしろ』って言ったら私が『あーする』訳でもないし、『こーしろ』って言ったからって『こーする』訳でもないのに。
んー。
でもさー、やっぱさー。

「……たこ焼き、食いに行くか?」
「どんな話の流れさ、それ」
「いや、ひょっとしたらこれが最後になるかも知れないし」
「な、何でっ?」
「お前が誰かの『彼女』になったら、もう俺と二人で動く事も無くなるだろ」

あ。

「……どした?」

そっか。

「おーい、桜ー?」

誰かと付き合うって、そう云う事になるんだ。

「……ったく。 呆けてんなら先に帰るからな」

だったら………

「ゆーいちっ」
「あ?」
「たこ焼き、食べに行こっ」
「生き返ったと思えば途端にそれか。 お前には節操と言うものが―――」
「はーやーくーっ、たこ焼き逃げるー」
「んだっ! 引っ張んな、伸びる! しかもたこ焼きは逃げん!」



まだ当分、恋はいいや