「祐一のお父さんって、どんなん?」
「は?」
「あ、私もそれ気になります」
「お前は黙って宿題をやれ」
「はうぅ……」

週のまんなか水曜日の放課後。
宿題を忘れた所為で居残りさせられている唯の横でだべっていた時、桜が不意にそんな事を訊き始めた。

「どんなって……何が?」
「見た目とか性格とか。 今まで一回も見た事無いからさ」
「私も無いです」
「唯。 見捨てて帰るぞ」
「ご、ごめんなさいっ」

慌てて宿題に戻る唯を見ながら、俺はふと一人の男を思い浮かべた。
親父、か。
そう言えば最近見かけないな。
まったく、何処で何やってんだかな。

「見た目は息子である俺がどうこう言える事でもないから黙秘するが、一つだけ言える事があるぞ」
「なに?」
「親父は、俺よりも数段キレやすい」

誰かが受けた理不尽な痛みに対して。
自分の親しい者が受けた傷に対して。
何より、自分に敵対する者に対して。

「……祐一、あんた私の事バカにしてる?」
「んなっ、何で?」
「あんたよりキレやすい人がこの世に居るって? バカも休み休み言いなさい」

「んもー」、と腰に手を当てて俺の言葉を真っ向から否定する桜。
何だかメチャクチャ貶されてる気がした。

「ホントだって。 って言うか俺は基本的には温厚な人間なんだぞ?」
「それはウソだ」
「それはウソです」

ステレオで否定された。
って言うか唯まで一緒になって否定しやがって。
ほほう、いい度胸じゃないか。

「じゃ、頑張って独りで宿題やれな」
「ぇ、あっ?」
「桜。 唯の勉強の邪魔しちゃいかん。 帰るぞ」
「…………はいなっ。 じゃね、唯」
「さ、桜ちゃんまでー? ちょっ、待ってくださいよぅ」

あわあわしながら帰る準備をしはじめる唯に、俺はびしっと言ってやる。

「唯。 お前には宿題をやると言う崇高な任務が残っているだろ。 まさか放り出して帰ろうとか言うんじゃないだろうな」
「だ、だって相沢さんがぁ」
「ゆーい。 宿題ってのは一人でやるから宿題なんだよ? 何時までも甘えてちゃメっ」
「ふぇぇ……」

殆ど半泣きの状態の唯を一人教室に残し、俺と桜は廊下に出た。
あまりに完全な意思疎通に苦笑しつつ、互いに『あんまり唯をいじめちゃダメだぞ』みたいな事を言い合ってはまた声を殺して笑った。

30分くらいは一人でも真面目に勉強するかと思いきや、2分でマジ泣きしそうになったので慌てて二人で教室に駆け込んだ。
その帰り、コンビニで『ジャージー州の牛にジャージを着せて搾乳した美味しさレベルマッハ2のプリン』を奢ってやった。
最後には笑顔になったとだけ、言っておく。