「俺は考えた!」
「な……何をですか?」

半端な週休二日制の恩恵を受け、明日は休みな金曜日。
ほえほえしながら歩く唯の目を真剣に見詰めながら、俺は叫んだ。
唯の反応が『はぅ、また相沢さんが変な事を言い始めちゃったよぅ』だった事は気にしない。

「お前、プリン好きだよな」
「あ、はい」
「焼きプリンも好きか?」
「はい。 あれはあれでアリだと思います」
「ほう……そうかそうか」
「……なんかやーな予感がするんですけど」

うむ、お前もなかなか鋭くなったな。
お父さんは嬉しいぞ。

「さて、家庭科クラブの観空唯クン」
「は、はい?」
「調理の基本は『焼く・煮る・蒸す』、だな?」
「そ、そうですけど………」
「よし、判ったら行こうな」
「ど、どこにですかぁ?」
「俺んち」
「ふ、ふえぇぇぇぇ」

で、俺の家。
テーブルの上に置かれた卓上コンロ。
大きな鍋。
昨日の内に買っておいた『プディングじゃねぇ! プディングじゃねぇんだ! 俺の事はプリンと呼んでくれ! との主張を持った漢気溢れるプリン』
しかも十個くらい。

「焼きプリンがあるんだ。 煮プリンがあってもおかしくなかろう」
「や、やめてくださぃぃぃっ」
「うわはははは! 煮てくれるわ! 原型を留めなくなるほどドロドロに!」
「ひぅぅぅぅぅっ。 ぷ、プリンがぁぁぁぁぁっ」

ぼたぼたぼた。
ぐるぐるぐる。
ぐつぐつぐつ。

「さぁ、喰え」
「うぅぅぅ……せっかくのプリンがぁ……」

俺特製の『煮プリン』を目の前にして、『がーん』の効果音を背負いながら泣き崩れる唯。
何とも否定的なリアクションだった。
いや、案外うまいかもしれないじゃないか。
人生はチャレンジだって、斜向かいの山田さんとか言ってたような気がするし。

「非道いですよぅ……せめて一個くらい残しておいてくれても……」
「中途半端は性に合わんのだ」

偉そうに言ったら、ジト目で睨まれた。
ちっとも恐くなかったが、涙が飽和状態まで湛えられたその瞳に罪悪感が募る事も確かだった。

「ひ、一口だけでもどうだ?」
「じゃあ……一口だけ」

おそるおそるスプーンを鍋に入れ、ひとさじ掬う。
目の前まで持ち上げられたスプーンの中には、どろっとした液体と固体の中間のような物体が盛られていた。
うわ、甘ったるい香りが。

「い、いきますっ」
「いってらっしゃい」

ぱくっ。
どろっ。
ねろっ。

「ど、どうだ?」
「……凄く、甘いです」
「まぁ……暖めれば甘さを感じやすくなるってのは原則だからな」
「普通に食べた方がおいしいです」
「そ、そうか。 ご苦労だったな」
「普通に食べた方がおいしいですっ」
「う……ご、ごめんなさい」
「……相沢さんも、一口」
「いや、あの、俺は甘い物は苦手で」
「相沢さんもひとくちぃっ」
「イタダキマス」

スプーンを突き付けながら迫る唯は、普段からは想像もつかないくらいおっかなかった。
逆らったら、泣かれる。
ある意味怒られるよりも厄介だと思った。
恐るべし、プリンが絡んだ時の唯。

無理矢理食べさせられた『煮プリン』は、やっぱりと言うか何と言うかメチャクチャ甘ったるかった。
ぷりぷりし続ける唯に、『二度とプリンを冒涜しません』の誓約書を書かされた。
多分、一週間で忘れると思うけど。

次の日、桜の家にお呼ばれした唯が遭遇したのも『煮プリン』だったらしい。
俺と同じく桜も誓約書を書かされたらしい。
多分、桜なら三日で忘れるだろう。