お菓子は1000円以内だと記載されたプリントを紙飛行機にして飛ばして捨てた修学旅行三日前の水曜日。
誰がそんな言い付けを守るものかと思う反面、絶対完全パーフェクトに1000円以内でしか買い物をしないだろう可愛いバカ正直っ娘がいとも簡単に思い浮かんだりする事も事実だった。
どーしたもんかと空を見れば、「どーでもいーよ」と雲が笑ってるような気がした。
ふむ、確かにどうでもいいな。

「相沢さんはおかし、買わないんですか?」
「お菓子? 食いたくなったら車内で買うけど、わざわざ行く前から荷物を増やそうとは思わないな」
「だ、ダメなんですよぉ? 移動中に買い物をするのは」
「知った事か」

移動中に腹が減って、新幹線内を移動するキオスクが居て、財布には金が入っている。
そんな状況で何も買うなと言う方がむしろおかしいだろう。
市場経済における需要と供給の仕組みを知らない阿呆か? 教師。

「大丈夫だよ。 バレないように買うから」
「……バレるとかバレないとかの問題じゃないと思うんですけど」
「ところで桜は?」
「あっちでみゃーちゃんと会議してます」
「会議? 何の?」
「『うまい棒』の全種類をコンプリートするぞー。 珍種を売ってる店を探せー。 おー。 って言ってましたけど」
「またバカな事を……」
「あんなに種類があるのにプリン味が無いってどーなんですか?」

どーなんですかと雲に問えば、やっぱり「どーでもいいーよ」と言われてるような気がした。
うん、俺もそう思う。
プリン味はどーでもいい。
プリン味はどーでもいいんだけど―――

「じゃあ今日の帰り、タバコ屋の角の駄菓子屋によってくか」
「下校中の寄り道もダメなんです…って、あれ?」
「ん?」
「相沢さん、おかし、買わないって」
「……行きたくないなら、別に構わないけど?」

まったくもって捻くれた俺の言い草に。
それでも唯が笑顔になった。
互いに少し、表情に照れが混じっていたけれども。
概ね空は青くて、風は爽やかで、俺達は笑っていた。

「行きましょっか、一緒に」
「ん」