「くれぐれも問題行動を起こす事の無い様、我が校の生徒であると云う自覚を持って―――」

威厳を持たせようとやたらに意気込んだ声で、明らかに俺の方を睨みながら唾を飛ばす教務主任の顔が気に食わない朝の嵐山。
青く澄んだ空の下で喰らうお説教はまた格別だなぁとか思ってしまう辺り、どうにも俺の思考回路からは『反省』の二文字が抜け落ちている様だった。
いや、昨日の件に付いては俺に反省の余地など見当たらないのだが。

「あ、あの先生、やけにこっちの方見てませんか?」

こっそりと後ろを振り向きながら、ひそひそ声で話す唯。
どうやら教務主任が俺を睨んでいるものを、自分が睨まれているのだと勘違いしたようだった。
しかしそれでも後ろを向いて私語を試みる辺り、ひょっとしたら唯は物凄いチャレンジャーなのではないだろうか。
そう考えると、俺が睨まれている視界の中に唯が在中しているのもあながち間違いではないような気がした。
なので、ちょいとからかってやる事にした。

「ああ見てるな。 きっとお前の事がどうしようもなく嫌いなんだろ。 不良だし」
「そんなっ? わ、私はちっとも不良なんかじゃ―――」
「そこっ! 私語をするな!」
「ひぅっ」

びしっと指を差し、教務主任が怒声を張り上げる。
挿された唯が、びっくりして変な声を漏らす。
後ろに居た俺は、恐らく笑っていたのだろう。
予定調和のハプニングとは、非日常の旅先においてこんなにも面白い。
自分が不真面目で、相手が生死に関わらない程度に真剣で、空が青ければ尚更だ。

「自主研修に出てしまえば今の様に注意をする教師も居なくなるんだ。
 その事をよく頭に入れ、班長はしっかりと責任を持って自分の班の班員を統率して、ってそろそろ起きろ草薙っ!」
「ぅ?」

なぁ、桜。