京都タワーで繰り広げられた『女三人お買い物珍道中』に、HPもMPも限界まで吸い取られてしまった午後の四時。
フラフラになりながら宿に到着した俺を待っていたのは、更なる悲劇への幕開けであった。

「パス。 マジ無理。 ごめんなさい」
「うっさい。 いーから立ち上がる! そしてキビキビ動く! こうしてる間にも新京極はスタコラサッサと逃げてるんだからね!」

以上、説明終わり。
要するに『女三人お買い物珍道中』は京都タワーで終わりを告げたのではなく、むしろ暁の産声をあげたばかりだったと云う事であった。
あれだけ土産物屋を物色しておいて何も買わなかった辺りに嫌な予感はしていたのだが、まさか的中するとは思わなかった。
つまりこいつらの本当の目的【ターゲット】は、京都タワーではなく新京極。
タワーでの土産物屋巡りは、ただの様子見に過ぎなかったらしい。
なるほど確かに言われてみれば、『旅のしおり』にも『16:00〜18:30 新京極での買い物許可』とは書いてあったはずである。
しかし『許可する』と云うのは何も『必ずしなくてはいけない』と云う意味ではない訳であって、いやゴメンナサイ、なんでもありません。
……なぁ、こう見えても俺たちは親友同士じゃないか。
なにも買い物に同行するのを拒んだからって、そんな射殺すような目付きで睨まなくたっていいじゃないか、草薙さんちの桜さんよ。

「……祇園精舎の鐘の声、か」
「っ? 諸行無常の響きあり、ですねっ」
「迅速な反応ありがとうな、彩嶺さん」
「いえいえ、とんでもない」

今日一日を通して、気がつけば随分と気軽に話せるようになったものだ。
桜の隣で『沙羅双樹の花はいいですよー』なんて言っている彩嶺の顔を見ながら、俺はぼんやりとそんな事を思った。
それにしても、諸行無常である。
少なくとも俺は、さっさと風呂に入って寝たいのに。

「ゆーいち。 なんかアンタの顔から不穏な感じのオーラが読み取れるんだけど?」
「相沢さん……ひょっとして迷惑…ですか?」
「滅相もございません。 私は買い物が楽しみで楽しみで仕方がありませんです、サー」
「ん。 ほんじゃー行こっか、新京極」
「なんで女はこうも買い物が好きなんだか…」
「なんか言ったっ?」
「何でもございません、サー」
「ねぇみゃーちゃん、さっきから相沢さんが語尾につけてる『さー』ってなんだろ?」
「さぁ」
「………」
「………」
「……彩嶺さん、流石の俺でもソイツだけはフォローできないんだが」
「え? ……あ、いやっ、ちがっ! ぎゃ、ギャグじゃなしにっ!」

そんなこんなで俺たちは、修学旅行生の買い物のメッカ【聖地】、新京極へと足を伸ばすのであった。
ああ、帰りたい。