自分の意志ではなく、目が開いた。
映す世界は、今までとはまったく異質。
見える、感じる情報量が桁違いだった。
空を飛ぶ鳥の羽ばたき。
路地裏を吹き抜ける風の薫り。
そして、目の前に居る人間の動きの全ても。

白い首筋が眼前に曝け出されてる。
宛ら生贄であるかのように。
見ただけで判る、それは若い女の柔肌だ。
見える。
感じる。
白い皮膚の下に、柔らかい肉の中に。
流れる生命の象徴を。
命の泉である、血液の流れを。

ダメだ、と思う理性は何処にも無かった。
ただ、当然の事の様に『食事』を行うだけの事。
何の問題もありはしない。
異常に特化した犬歯を剥き出しにし、その首筋に齧り付いた。
皮膚を突き破り、頚動脈を切り裂き、溢れ出る血液を一滴も逃さぬ様にと、思いきり啜る。
下品なまでに啜る。
穴の開いた皮膚に舌先をちろちろと突っ込みながら、なおも啜る。
『吸血』
冗談抜きで死ぬほど久し振りの行為は、好きな女を愛撫するにも似た快感を祐一に齎していた。

「あ、ぅあっ!」

少女の身体が跳ねる。
まるで絶頂に達した瞬間の様に、つま先までをも可愛らしくぴくぴくと引き攣らせて。
その表情に浮かぶのは、確かな恐怖と、隠し切れぬ恍惚。
種の起源に迫るかのような、快感。
首筋から血を吸われ身体中から『命』が抜けていく感覚を感じながらも、エマの小さな胸の先端に在る乳首は硬く立ち、その男を知らぬ陰部は洩らしでもしたかの様に熱く濡れそぼっていた。

「いぁっ……あふぅっ」

こんな自分の声、初めて聞いた。
何て卑猥な、何ていやらしい、何て背徳的な声。
耳を塞いで全てを否定したかったが、既に両手には力が入らない状況だった。
がくがくと震える全身。
絶え間無く自身を襲う、得も言われぬ快楽。
焼ける様に熱い首筋から流れ出ていく、自分の『生命』
その全てに恐怖しながらも、エマの身体は完全に雌としてしか機能しなくなっていた。

「やあぁぁ……ぅあっ! うぅあああぁぁ! ひぃっ、あきゃぁぁぁ」

イク、と言う感覚を当然エマは知らない。
だから、自分の身体に起こっている変化を形容する術を知らなかった。
股間が濡れているのだって、お洩らしをしてしまったんだとしか思えなかった。
どうして自分がこんな事になっているのか、判らないままに数度めの絶頂を迎えた時。
首筋に感じていた熱さが消え去り、耳元で小さな声が聞こえた。

「………まずっ」

そんな言い方は無いんじゃないかと思った。