今日も日差しは弱い。
これは喜ぶべき事だ。
祐一はウキウキ気分で部屋のクローゼットから私服を取り出した。
黒いデニムに、黒いロンT。
そして黒いシャツ。
その上から丈の長い黒のロングコートを羽織った。
黒と言う色は俺の為に有ると言わんばかりの服装だった。
理由は一応ある。
白い色は日光を反射するのだ。
例えそれが微弱な反射率だとは言え、無駄な危険は極力避けたい。
太陽光と照り返しで両面焼きのサンタナになどなりたくは無い。
もっとも、祐一自身が黒い服装を好むと言うのが最大の理由だったが。

冬休みは素晴らしい。
何が素晴らしいって、学校に行かなくて良い。
夜更かししても怒られない。
昼間に活動しなくても良い。
昼間にだって、日光が弱い冬なので活動できる。
嗚呼、冬休みバンザイ。
人類の中で最大の功績を挙げた人は、きっと冬休みを創った人だろう。
いつか直接会って礼を言いたいものだ。
冬休みに入ってからと言うもの、祐一は二日に一回の割合でそんな事を思っていた。

外に出ると、赤い夕日が沈んでいくところだった。
それを眩しそうに見ながら、祐一の口元には確かな笑みが浮かぶ。
さーて、今日は何をしようかな。
久し振りにバイトも休みな事だし、散歩でもしてみようか。
背伸びをしながら、黄昏の街をてれてれと歩く祐一。
うむ、予定を決めずに歩くと言うのもなかなか良いものだ。
現代人よ、ゆとりをもて。
なんともじじむさい思考だが、とにかく祐一の今日の予定は『散歩』に決定した様だった。
 
それにしても気分が良い。
早起きは三文の得とはよく言ったものだ。
これからはいつもより5分だけ早起きしてみようかと祐一は思う。
一日5分。
三日で15分。
一年で……えっと……いっぱい。
十年だともっといっぱいだ。
何ともお得じゃないか。
よーし、決定だ。
明日から早起きするぞー。

永劫の命を持っているくせに、分単位の得を呑気な思考で喜びながら歩く祐一。
ついつい鼻歌まで歌ってしまっていた。
天下泰平を絵に描いたような、夕焼けの街並み。
塀の上で眠る猫。
山に帰るカラス。
北風までもが何処か優しい。
そんな華音市は、平和としか言い様が無かった。

そして、有史以来の法則として、平和とは突然崩れ去るものだった。