「妹よ」
「何かな? 兄上」
「将棋しようぜ、将棋」
「また随分と唐突だのう。 何か思う所でもあったのかえ?」
「ふっふっふ……俺はついに手に入れたんだよ、常勝不敗の陣形をな」
「常勝不敗……558戦558敗の兄上の口から聞くと、その言葉も眉唾物だのう…」
「う、うっさいな! いいからやるぞ、ほら!」
「はいはい、わかったわかった。 では先手は兄上に譲ってやろう。 武士ならぬ妹の情けじゃ」
「その余裕に満ちた顔、30分後には泣きっ面に変えてやるぜ!」
「……どんなに惨敗したとて、将棋の勝敗では泣いたりはせぬよ」

10分後

「……何も泣かなくても良いだろう、兄上」
「う、うっさいうっさい! 泣いてなんかない!」
「大体、さっきのは一体何がしたかったのだ。 美濃とも穴熊ともつかぬ珍妙な囲いをしおってからに」
「……俺の考案した攻性防壁。 『姉熊』って言うんだ」
「……あね、ぐま?」

「香と飛、金と銀、桂と角を縦一直線状に配置する攻撃的な防壁は、さながらスールの契りを交わした姉妹の如くに触る物みな傷つけて――」
「兄上、兄上」
「――ナイフみたいに尖ってはって、何だ妹」
「悪い事は言わん。 その姉熊とやらは、未来永劫封印しておくが良い」
「で、でも――」
「いかん」
「この姉熊すごいよ?」
「ダメじゃ」
「さすが矢倉のおねーさ――」
「棄ててきなさい」
「……う、うわあぁぁぁん! ゆにばあぁぁぁああす!」
「誰がユニバースじゃ、誰が」

蝉の声が五月蝿かった。
軒先に落ちた影がとても濃かった。
妹の呆れ果てたような声が縁側に緩く流れていた。

二人で将棋をした日のこと。
そんな晴れた日のこと。
とてもとても暑かった、そんな日のこと。






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

参考画像(※画像提供者、兄上)

・姉熊


・真・姉熊



将棋が判らない人のためにガンダムで言うと、ホワイトベースの前にガンペリーとガンタンクとGブルを縦に並べて「これ超凄い陣形!」って言ってるような感じ。
よくよく見るまでもなく角前の歩が隙だらけなので、速攻で攻め込まれて「左舷弾幕薄いよ!何やってんの!」な状況に陥る。
ちなみに『姉熊』の語源は、当時話題となった「妹だと思って蹴ったら熊だった」のニュース。
興味があったらヤフーでググるといい。