「王国【Kanon】直轄防衛庁内特殊行動部第666課所属、美坂香里以下二名。 特秘任務第45892号の任務完遂報告に参りました」
「どうぞ」

五重以上の警備網を通り、ようやっと辿り着く事が出来た王女との謁見の間。
荘厳な扉が開くと同時に香里の眼前に現れたのは、左右に配備された30人からの兵士とその向こうにいる二人の女性の姿だった。
あいも変わらず美しい王女と、姫。
しかし香里の意識はそこには向けられていなかった。
魔物が跳梁跋扈するような世界情勢の最中とは言え、王族の目の届く所で諸刃が切っ先を天に向けている。
あまりに剣呑な周囲の状況は、少なからず香里の気持ちを引き締めるに充分な事柄だった。

「王女様に置かれましてはご尊顔麗しく―――」
「久し振りだねー、香里」
「おいおい俺には挨拶なしか? 名雪」
「依然として予断を許さぬ状況ではありますが―――」
「おかえりなさい、祐一さん」
「はい、ただいまです、秋子さん」
「機に乗じて動いている魔物の数は計り難いものがあり―――」
「なーなー、俺は?」
「北川君も、おかえりなさいっ」
「おうっ」
「アンタ達はどーしていっつもそーなのよっ!」

あまりにも場を弁えないアットホームな会話に、香里が爆発した。
怒りで羽織っているローブがゆらっと揺れる。
オーラで背後に鬼が見える。
だがその怒りに一番脅えたのは、祐一でもなければ名雪でもなく、何を隠そう側近の兵士達だった。

おい、あれがか?
ああ。 間違いない。 美坂香里だ。
高等修練学校で一年から卒業するまでの間、トップを守り続けたって噂の天才だろ?
聞いたか? 魔術は勿論、体術でも相当なもんだったらしいぜ。
おっかねぇ。 逆らったらチリに環らされそうだ。
見ろよあの目付き。 ありゃ確実に人を殺してる目付きだぜ。
まったくだ。 まったくだ。 まったりだ。

「そこの人達もうるさいっ」

ザッ!

兵士が即座に直立不動の姿勢を示す。
その額に冷たい汗が流れていたのは、恐らく錯覚ではなかっただろう。