祐一が久瀬と堅すぎるほどに堅い握手を交わしていたその頃。
美坂チームの残る二人は、同じく大規模な戦争を目前とした和議の申し入れをする特使として、祐一とは別の国へと歩を進めていた。

王国【Kanon】衛星都市国家、【雪割(ゆきわり)】
倉田家現当主である倉田祐弥氏が治めるこの国は、小国でしかも衛星国家でありながらも、ある特異な優位性を他国に対して持っていた。
聖天騎士団一個師団に相当するとも言われている【雪割】独自の武装戦闘集団、【雪月華】
本来であれば聖天騎士団団員に迎えられてもおかしくないほどの資質を持ったものが旅団クラスで、たかだか衛星国家如きに保有されている。
できる事ならば世界の全てを掌握しておきたい【ONE】が【Kanon】に対して強硬な態度に出れない理由の一つが、この【雪月華】だった。

「私達のいっこ上で相沢君と仲の良かった川澄先輩っていたでしょ? あの人、卒業と同時に【雪月華】に迎え入れられたそうよ」
「川澄……ああ、あの体術評価が学校始まって以来の好成績だったあの」
「好成績なんてもんじゃないわ。 魔術評価が最低値だったのに、それでも卒業する時には実戦偏差値が70を越えてたのよ」
「うわ、すげ」
「あの人が罷り間違って魔法を覚えた日には、黒帝すら余裕で倒せそうな気がするわ」

本当に、そんな気がする。
川澄舞と言う人物を身近に知っている者にとって、彼女の強さとはそれほどの物だった。
神憑かった身体能力。
沈着冷静な判断力。
老練の戦士も驚くほどの戦闘における反射神経と空間把握能力は、既に十代の女性の物ではなかった。
そして、何よりかにより美しい。
戦う女性が美しいのは良い事だと、在学中の北川はよく思ったものだった。
もっとも、その思考はいつも途中から隣りを歩く女性の元に集約されるのが常だったのだが。

「ん? あたしの顔になんか付いてる?」
「え、あ、あぁ、目が二つに鼻と口が一つ付いてるけど」
「……おバカ」

剣呑な世界情勢下での長閑な旅路は、何故だかとても楽しかった。