『事件』である事は確信した。
午後の授業をサボる事も決意した。
だが、そこから先にどのような行動に出れば良いのかだけは、三人寄って文殊の知恵を授かった彼等にも判らなかった。
いくら破天荒な日々に身を投じていようとも彼等の本職は学生であり、その本分は勉強なのである。
そして非常に残念な事ながら、現在の日本の高等学校教育課程では、『忽然と行方を眩ませたイチゴムース配送ドライバーの行方』を導き出す方程式など教えてはいないのだった。
 
「とりあえず、いつまでも廊下(こんなところ)には居られないわね」
 
一応は授業中である事を鑑みて、香里が周囲を見まわしながら言った。
見渡せば自分達の他に人影は無く、各教室からは黒板に白墨を叩きつける音や多少ならずとも発音に難のある柏木ちゃんのリーディングなどが聞こえてきている。
このまま所在無く廊下に立ち尽くしていたところで落ちついた話し合いなど出来ようはずもなく、それどころか校内見回りの先生に捕まってしまうのが考え得る限り最適なオチだった。
勿論その場合には、後々にまで響く内申の減点と鼓膜に響く生徒指導の説教を覚悟しなければならないだろう。
出来る事ならば、それだけは是非とも回避したいものだ。
最近では怪しくなってきたが自称『真面目な一般生徒』の香里は、綺麗なウェーブのかかった髪を指先で弄びながらそう思った。
 
「保健室にはベッドがあるが、保険医の栢(かや)ちゃんがいる恐れがあるな」
「ふーむ、栢ちゃんの淹れてくれるお茶とふかふかのベッドは捨て難いが……流石に三人で乗り込むのはなマズイだろう」
「ちょっと待ちなさい。 ベッドは関係無いでしょベッドは」
 
香里からずびっ!とイイカンジの裏手突っ込みが入る。
予めその突っ込みを期待していたのだろう二人が小さく笑い、気付いた香里も呆れ勝ちにだが笑った。
 
「すると、やっぱり残る場所は一つしかないよな」
「やれやれ。 まさかこの俺が在学中に、しかも自発的に図書室に行く事になろうとはな」
「奇遇だな相沢。 俺もまさかこんな所で図書室利用”逆”皆勤賞の芽が摘まれるとは思ってもみなかったぜ」
 
やたらに偉そうな二人に、しかし香里から2連続での突っ込みは入らず、代わりに深い溜息だけが授業中の廊下に吸い込まれては音も無く消えていった。
 
【場所移動フェイズ】
 
・教室
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