恋をしたいと切実に願う今日この頃。
北風は冷たく、雪の冷たさは最早痛く、ホットコーヒーと肉まんの湯気だけが自身を暖める全てであると気付いた冬の日。
こうしてコンビニの前に座っていると所謂『今時の若者』風に思われて嫌なのだが、それでも俺には行くべき場所が見当たらなかった。

やる事が無い。
大学進学を推薦で決めてしまった俺に突如として襲いかかってきたその魔物は、今までの人生の中でもいっとうヘビーな相手だった。
学校に居てもやる事が無い。
家に居てもやる事が無い。
生きていても、やる事が無い。
だからと言って死のうと思うほど、俺の思考回路はネガティブには出来ていなかった。
結論として思う事は、何とも陳腐でしかし今の生活の全てを覆すに足るほど素敵な提案。
多分に非現実的ながらも、やはりそれは暗闇を照らす一筋の光の様にも思えた。

恋が、したい

出来るなら叶わぬ恋が良い。
出来るならバッドエンドで終わる恋が良い。
愛になど、発展しなくて良い。

「祐一? どしたの? 凍死体ごっこ?」

この季節にその『ごっこ』をやったら、ほぼ間違い無く『本物』になってしまう。
デニム生地のスカートからすらりと伸びた痩せ過ぎの部類に入るだろう細い両足を見ながら、俺はそんな事を思った。
真琴。

「恋がしたいんだが、その方法が判らないんだ」
「女の娘の前でそーゆー事を言うのがどれだけ失礼かって事が判んないようじゃ、祐一に恋なんて一生かかっても無理よ」

心底呆れ果てたような顔で、真琴が俺を見下ろす。
ひょいっ。
訂正、真琴が俺の手の中にあった肉まんを見下ろす。
ついでに奪い取る。
あ、全部食べやがった。
俺の130円が。

「んぐんぐ……あのね祐一」
「何だよ肉まん泥棒」
「春まで待ちなさい」
「……はぁ?」
「こ、い」

そう言って真琴は、俺に向かって手を差し伸べた。
細っこい。
ちっこい。
ぎゅっと握る。
あったかい。
不思議だけど、肉まんよりも。

「恋なんてね、花と同じ。 何時の間にか咲いてるし、何時の間にか散ってるの。 押し花にして楽しむなんて野暮はしちゃダメ。 わかる?」
「わっかんねー」
「春までなら暇潰しに付き合ってあげるわよ。 日給3肉まんで」

どんな単位だそれ。
心の中で突っ込みを入れつつ、俺はとりあえず春まで待つ事にした。
死ぬことを?
恋をする事を?
それは判らない。
判らないけど、春が来るまでは、真琴と一緒にいようと思った。
春が来たらどうなるかなんてのは、春が来たら考える事にしようと思った。