かつて闇の世界に名を馳せた一人の男がいた。
暗殺の腕も、請求する額も、容姿の良さも、全てがSクラス。
漆黒のロングコートにブラック・セラミックス製の暗器を用いる彼を、ある者は畏怖の念を抱き、またある者は羨望の意味を込めてこう呼んだ。
黒騎士【ブラックナイト】、相沢祐一、と。

今夜の獲物は大物政治家だった。
弱者からの搾取を繰り返し、その身体は汚職に塗れ、詐欺紛いの手口を繰り返す卑劣漢。
約束を守れぬ外道を殺す為に祐一が選んだ道具は、針だった。
ゆびきりげんまん うそついたら はりせんぼんのます

「しかも畳針だ。 千本も飲んだら確実に死ぬぞ」

直後、ターゲットの口内には無数の黒曜針が突き刺さっていた。
しかしその傷は即死には値せず、男は陸に居ながら自身の血に溺れ、苦痛のうめきを周囲に響かせた。
飛沫する血液。
掻き毟られる畳。
恐怖と怨嗟に満ちた声。
あまりに凄惨な『仕事』の現場に、同行した桜が明らかな嫌悪感を示した。
一瞬だけ顔を背け、しかしその直後にはキッと祐一の顔を睨んで―――

「何か……問題が?」

その圧倒的なまでの冷たさを持った瞳を見た瞬間、もう何も言えなくなっていた。
これは『仕事』
この人は、悪い人。
一生懸命そう思おうとしている桜とは全く別の次元で、祐一の『仕事』は行われていた。

「ウソついたら針1000本…だもんね」

既に事切れた男にとって、小さく呟かれた桜の声は、鎮魂の調べにもならなかった。


悪を裁く為の悪。
正義を貫く為の罪。

血に塗れた両手。
罪に汚れた身体。
もう、誰も彼を『正義』だと呼んではくれなくなった。
『誰か』の為に罪を重ね、誰にも悼まれずに死んでいく。
身体から『命』が抜けていく感覚を味わいながらしかし、祐一は静かに微笑んでいた。
熾烈な戦いの果てに頭部からの流血が淀ませた紅い瞳に映った、かつて亡くした最愛の女性(ひと)。
たとえ世界中が彼を疎んじたとしても、彼女の微笑だけは変わらなかった。

「ずっと一緒だって、『あの日』言ったよな」

これでやっと約束を守れる。
ようやくキミの元へ往ける。
これからは……ずっと…いっ、しょ





これは『Stay by My Side』第十五幕公開予告の際に作った、セリフのみを本編から取り出して後は適当にでっち上げたウソ予告です