しゃかしゃかしゃか
茶筅が円を描く度に、薫り高い抹茶の粉がお湯に溶けていく。
その動きは細かく、素早く、なのに柔らかく。
一種の矛盾した様相を見せながらも、しかしそれは完全に調和されている動きであるかの様にも見えた。
やがて完成する、鮮やかな緑の葉の色を映した薄茶。
篭められた様々な想いが冷めぬ内にと、慎重且つ流麗な仕草で茶碗が運ばれた。
正座って何だと言わんばかりにあぐらをかいている無作法極まりない客人、相沢祐一の元へ。

「どうぞ」
「おう」

がしっ
ごくごくごく
ぷはー

「ごち」

侘びも情緒もへったくれもなかった。
だがそれでも、主人である天野美汐は柔らかな微笑を見せながら祐一に尋ねた。

「美味しかったですか?」
「ああ」

無愛想に聞こえるその言葉も、最上の笑顔と共に言われるのであれば最高の賛辞になる。
畳と抹茶と祐一の薫りがする六畳で、やっぱり美汐はとても嬉しそうな笑みを見せるのだった。

毎週水曜が茶道部の活動日。
そして、毎週木曜日が二人だけのお茶会。
開け放たれた窓から注ぎこむ苛烈な日光と爽やかな風を受け、美汐が小さく呟いた。

「夏ですね」
「夏だな」

夏だった。