「別に贖罪と言う訳ではない。 だが、私がこうして生徒会長という役職に就いているのも、何かの縁なのだろう」

直接面識のない女子生徒の死を心から悼んでやれるほど、久瀬は感傷的な人間ではない。
『運命』と云う言葉を使って過去の『久瀬』と今の自分を繋げようとするほど、夢に夢見るロマンチストな訳でもない。
だが、何を勘違いしたのだろう。
久瀬の言葉を横で聞いていた沙紀は、「なんて優しい会長なんだろう」と言う感じでしきりに頷いたりなんかしていた。

「判ってます。 絶対に私たちで『彼女』を成仏させてあげましょうね、会長っ」

悔しかったに違いない。
悲しかったに違いない。
死してなお学園に通い続けてしまうほど、『彼女』には未練があったに違いないのだ。
自分達は霊能力者ではない。
だけど、それでもきっと『彼女』のために出来る事があるはずだ。
だってほら、こんなにも貴女を悼む人がこの場所に――

「いや、お前は何を言っているんだ」

物凄い、変な顔をされた。

「な、何をって……『彼女』を成仏させてあげましょうねって…」
「……は?」

何か、『やばい人を見ちゃった』ぐらいのリアクションをされた。

「いや、だからそうじゃなくて、今回の事件を解決するためには『彼女』をどうにかしないと――って、何で目を逸らすんですかぁ!」
「大丈夫だ。 信仰の自由は憲法で保障されている。 私もお前の権利を侵害したりするつもりはないから――」
「何で天井の隅を見ながら喋ってるんですかぁ! ちゃんとこっち向いてくださいよ!」

ありったけの抗議の意を込めながら、豪奢な応接机をペシペシと叩く沙紀。
かなりの自重を誇る机はビクともしなかったが、代わりに数々の資料が「こは何事ぞ!」と言わんばかりの勢いで舞い上がった。

「……お前は理解力に長けているのは良いが、想像力までもがたくまし過ぎる」
「だ、だって会長が!」
「私が――どうかしたか?」

【気狂いピアノ】なんて単語を口に出した。
学園妖異譚なんかを持ち出した。
各方面から堀を埋めるようにして、妖異譚の元となった事件が存在していた事を突き止めた。
まるで『彼女』を悼むような表情を見せた。
そして、全てを識った上で事態の収拾に臨む姿勢を見せた。
事が此処にまで至れば誰だって『彼女』=『幽霊』と考えるだろうし、彼もそれを示唆しているのだとばかり思っていたと言うのに――

「――会長が、悪いです」

結論が用意されているのなら、最初からそれをそうとだけ言えばいいのだ。
思わせぶりな態度を見せるだけ見せて、最後の最後で手の平を返すだなんてあんまりだ。

拗ねた表情で唇を尖らせる沙紀を見て、久瀬はただ首を傾げるだけだった。