季節柄、世の中は文化祭まみれだ(表現ヘン
あっちでもこっちでも文化祭だ。
私の学校も先週文化祭だった。
勿論、サボった。
いや、違う、あの、そうだっ、卒験だったんだ。
うん、それならしょうがない。

んで、文化祭。
今日は私の過去を少しだけ語ってみよう。
そう、あれは私がまだ高校生だった頃の話。

(回想)

文化祭を目前に控えた3−Bの教室。
若い彼等のテンションは、昨日の時点から既にレッドゾーンをぶっちぎっていた。
エネルギーが勿体無い。
そんな事を思うほど、彼等は年をとっていなかった。
ひたすらに、楽しかった。
教室が教室じゃなくなっていく様が。
日常が日常じゃなくなっていく様が。
外が暗くなっていく事すら、無性に楽しかった。

そんな中、私は騒ぎの輪の中から少し外れた位置に居た。
疎外感を感じていた訳でも、輪の中に居場所が無かった訳でもない。
何と言うか、要は騒ぎすぎて疲れていたのだ。

私は異性に優しくない。
いや、本当は優しいのだが。
どうにもこうにも、『恐い人』と思われている。
そりゃ確かに、普段は女の娘とあんまりしゃべらない。
しゃべったとしても、必要最低限の連絡事項しか話さない。
しかも某ファーストフード店では0円で無料配布しているスマイルすら添付しない。
ああ、だから『恐い人』とか思われてたのか。

で、その『恐い人』な私の目の前で。
クラスで最強のドジっ娘である『沙紀(仮)』が。
凹凸のカケラも無いリノリウムの床で。
何故かつまづいてバランスを崩し、手に持っていたガラスの板(用途不明)を落とした。

ガッシャーン!

当然、割れた。
割れなかったらむしろ恐い。
そんな私ののんびりした思考とは真逆に、沙紀(仮)はめちゃくちゃに焦っていた。
動揺していた。
泣き出しそうだった。
そして、不用意に割れたガラスに手を伸ばそうとした。

「さわんなっ!」

咄嗟に叫んだ。
多分だが、目付きも厳しくなっていた。
冷静に分析してみても、笑いながら叫ぶのはかなり雰囲気に合わない。
って事はやっぱり、『恐い目付き』で叫んだんだろう。
その所為だろうか、沙紀(仮)はガラスを壊した事を咎められたと誤解して身を強張らせた。
思いっきり脅えていた。

「ご、ごめんなさい……」
「いや……怒ったんじゃなくて。 ガラス、危ないから下がれ」

もっとちゃんとした、もっと優しい言い方もあったんだろうが、私にはそれは不可能っぽかった。
だから、黙ってガラスの破片を拾った。
かちゃかちゃかちゃ。
さくっ。
案の定、指が切れた。
凄い切れ味だと、場違いに感心したりしてみた。
だらだらと血が出た。

すっと。
バンソウコが、差し出された。
見ると、脅えの(多少)消えた表情で私を見る一人の女子生徒がいた。
沙紀(仮)だった。

「………さんきゅ」
「……実は優しい人だったんだね」
「実はってなんだ実はって」
「だっていっつも恐い顔してるから……恐い人だと思ってた」
「地だ」
「でも、今は笑ってるよ」
「幻聴だ」
「耳はかんけーないって」

そう言ってくすくす笑う。
ピンク色のバンソウコには、ウサギの絵がプリントされていた。
家に帰ったら普通のヤツに張り替えようと思った。
そんな、文化祭の準備に明け暮れていた日の事。