フラグ立ってたんじゃないかと。
何処で選択肢を間違ったのか知らないけど、あのまま行けば沙紀(仮)エンドを見れたんじゃないかと。
只中に居た時もそして今も、私は件の文化祭を思う度にそんな風に考えるのだ。

(回想)

高文祭(全国高等学校総合文化祭)の所為で、その年の文化祭は例年よりも一ヶ月以上早く行われる運びとなっていた。
時に、八月の後半。
やたらに暑かった。
それすらも楽しくてはしゃいでいたのだから、案外近頃の高校生もタフだ。

暑かった。
はちゃめちゃに暑かった。
だから、私は模擬店設営をサボって自販機にジュースを買いに行った。

ガタン
ゴトン

500mlのペットボトルを、二本。
喫茶店をやる関係上、現在の3−Bには冷蔵庫があるから、多少多めに買っても何の問題も無いのだ。
冷え冷えのペットボトルで華麗にジャグリングをしながら歩いていると、前方の水飲み場に沙紀(仮)がいた。
それともう一人、多分だけどウチのクラスの女の娘がいた。
多分。
だって沙紀(仮)以外の女の娘の名前、知らないし。

「何やってんだ?」
「えっとね、教室の中あっついから休憩してたの」
「ほう」
「ふぃー、ノド乾いたー」

手には二本のペットボトル。
目の前に、暑さを訴える沙紀。
額にうっすら浮かぶ、汗。
手には、二本のペットボトル。
まるで始めから『そうする事』が決まっていたかの様に、私の体は動いていた。

「沙紀(仮)」
「ん?」
「ほれ」
「え、えっ?」

ぽいっ。
宙を飛ぶ、RAKUDA(って名前の飲み物だった)
買ってからまだ少ししか経っていないのに、汗をかいている。
その飛沫が、日光を反射して光る。
はわはわしながらも、至近距離からゆっくりと放られたペットボトルを取り落とす事は、さすがの沙紀(仮)もしなかった。
正直、落とすと思ってたのだが。
それは兎も角。

「やるよ」
「い、いいの?」
「ああ。 疲れるくらい働いたご褒美だ」
「ホントにいいの?」
「くどい」

半ば強制的に会話を打ち切る。
そもそも馴れていなかったのだ。
女の娘と話すのも、女の娘に優しくするのも、何かをプレゼントするのも。
自分の行為に対しての照れも、少しはあった。
ならば何故にそんな行為をしたのか。
それすらも判らなかった。

そのままふいっと沙紀(仮)の横を通り過ぎ、私は教室に向けての歩を速めた。
擦れ違いざまに、沙紀(仮)と目が合った。
まだ多少戸惑うその姿が面白くて、少しだけ浮かぶ笑いを噛み殺した。
サドだな、自分。

「あ、ありがとねー」

背中に投げかけられる、声。
女の娘にお礼を言われるのにも勿論馴れているはずもなく。
振り向いて返事をする代わりにただひらひらと、後ろ手を振ってそれに応えるのが精一杯だった。