「で? おたくの特技は何なわけ?」
「な、何でそんなに偉そうなのかなぁ…」
「ダマラッシャイ! 面接官に口答えするなんて生意気ザマスよっ」
「ごめんなさいっ?」

放課後の進路資料室に響き渡る、私の怒声と沙紀(仮)の謝罪。
自分達以外に誰も居ないのをいい事にして始まった『面接試験模擬練習』は、開始からものの1分で大方の予想通り脇道に逸れまくっていた。
いや、ハンドルを握って脇道を爆走しだしたのは主に私なのだが。

進路資料室には、過去にどの大学がどの様な質問を面接で行ったのかの資料がファイリングされている。
推薦試験を間近に控えた沙紀は、今更過去の質問を見直したって何が変わる訳でもないだろうに、それでも一生懸命に志望大学の出題傾向を調べていた。
不安だったのだろう、恐らくは。
自分でも無駄な事とは判っていても、何かをしていなきゃ押し潰されてしまいそうだったのだろう。
やれやれ、見るからに本番に弱そうだもんな、お前は。

で、たまたま進路資料室にてそんな沙紀(仮)を見た私がふざけ半分に「面接試験しようか」って訊いたら、意外にも返事は「お願いします」だった訳で。
ちなみに、私が進路資料室なんかに足を運んだ理由は、『質問の傾向を調べてないのアンタだけだよこのバカチンが!』って担任にどやされたからである。
間違っても自発的な行動とか試験を前にして不安だったからとか、そんな訳がなかった。

「はぁ……不安だなぁ」
「そんなにか?」
「考えてかなかったこと訊かれたらさ、絶対パニックになっちゃうよ…」
「うん、俺もそんな気がする」
「ふ、普通はそこで『そんなに緊張しなくても大丈夫だよ』とかフォロー入れてくれるんじゃないかなぁっ」
「ああゴメン。 うん、ダイジョウブだってお前なら」
「……もぅいい…」

へにゃっと机に突っ伏す沙紀(仮)
悪い、私は嘘がつけない性格なのだ。
ああいや、この発言自体が既に嘘なのだが。

「キミはなんでそんなに余裕なのかな……羨ましいよ」
「ん?」
「試験の日、私とそんなに変わらないのにさ。 小論文添削指導も一回も出してないでしょ」
「天才だからな」

きっぱり言ってやったら、またしても沙紀(仮)は力無くへにゃっとなった。
なんだ、私は何か悪い事でも言ったのか。

「とりあえずアレだ、何か知らんが元気出せ」
「ぅー」
「面接官の役目ぐらいならいくらでも引き受けてやるから、ほら」

ついでにお前の不安も引き受けてやるから。
とは、言えなかったし言わなかったし言えるはずもなかった。

「えー、それでは面接を開始します」
「はい」
「好きなラーメンの味は?」
「しょ、醤油です…ってそれは面接と関係無いんじゃないかなぁ」
「実はウチの学長は大の醤油ラーメン好きでな。 うむ、キミは醤油ラーメンが好きといったので合格だ」
「ほ、本当ですかっ」
「ああ、是非ともウチの大学で醤油ラーメンの素晴らしさを広めてくれ」
「ありがとうございます。 頑張ります」
「……何やってんのアンタ達」
「っ?」

突然の声と共に開けられるドアと、そこに立っている呆れ顔の沙紀(仮)の友達。
照れて真っ赤になった沙紀(仮)の顔が、可愛いと言えば可愛かった。