「SHIT! これだけの弾幕を張っていて何故にあのMS一匹を仕留められない!」
 
管制塔にスペイン訛りのある英語が響き渡った。
彼の名はナウム=カシス少佐。
地球連邦政府軍第七艦隊師団の指揮団長である。
かつて、セントヘレナ戦役において2機のズゴックと1機のゴッグを彼一人で倒したと言う輝かしい戦歴を持っている。
白金色のカラーリングと、腕に180mmロングレンジ砲を搭載した彼の愛機、鹵獲MS-07S【カシス専用グフ】は、『セントヘレナの猛禽』として恐れられていた。
 
それでも、宇宙(そら)を駆ける一機の黒いMSは捕らえきれなかった。
 
何もMS操縦の腕だけで少佐にまで昇格した訳ではない。
巧みな戦術、思考の読み合い、配下兵士への配慮。
その全てが彼を今の地位にまで押し上げているのだった。
今回の作戦も、地球連邦軍本部からの全幅の信頼を置かれての任務要請だった。
彼自身も、艦隊の火力やMSの数、補給ラインや退路まで考えて完璧な状態で今回の任務に望んだ。
負けは、無いはずだった。
 
任務内容は至って単純。
『敵補給艦隊がテキサスコロニー付近に陣を敷いている本体と合流する前に叩け』
情報によれば、火力も推進力も圧倒的にこちらの方が上。
予想外に楽な任務だと思っていた。
 
見た事の無い、漆黒の機体が現れなければの話だったが。
 
 
 
再三の停止要請を無視した補給艦隊に、お釣りが来るほどのミサイルを放ってやった。
ついでに祈ってやった。
悪いけど、これって戦争なのよね。
 
激しい爆音が響き、その熱線に誘爆を受ける形で次々と球状の閃光が広がる。
誰がどう見たって敵艦隊は殲滅したかのように思えた。
それ以外の可能性なんか考える余地すらなかった。
何しろ迎撃ミサイルの一発も敵艦隊は撃たなかったのだから。
 
「今夜はかの島国の英雄に預かって、『TOUGOUビール』でもやるかい? ブルックス少尉」
「………少佐……残念ですけど祝杯はもう少し先延ばしになりそうです」
「? どうした?」
「レーダーに反応あり! 敵艦隊は全艦無事! それと新たにレーダーに反応あり! 反応の大きさから見てMSです!」
「MSだと!? さっきまでは影も形も無かったはずだぞ!」
「少佐! 早急に第二波のミサイル発射命令を!」
「許可する! だがMSはあくまで無視だ! 第一目標は敵補給艦隊におけ!」
「了解!」
 
即座に第二波のミサイル発射準備がなされる。
今度は先程よりも特盛りで。
 
結果を言ってしまうと、全てのミサイルは敵艦隊に届く前に爆破させられてしまった。
全てのミサイルが誘爆を受けた訳ではない。
そんな初歩的なミスを犯すほどカシス少将は愚かではない。
驚くほど的確な位置の、最も多数の誘爆を引き起こすであろうミサイルを撃ち抜かれたのだ。
多分、謎のMSの所為だろう。
 
二度目の攻撃が失敗に終わった時、既に艦内に余裕は見られなかった。
任務失敗と言うだけならばまだ良い。
いや、良くは無いのだが最低死なずに済む。
命があれば次がある。
女々しい等と言ってはいけない。
引き際を弁えないのはただの馬鹿。
勇気と無謀は違うのだ。
 
だから、カシス少将が未知の敵に対して退却命令を出したのも、あわよくば敵を倒せるものとして三機のGMを射出したのも、どちらの判断も間違ってはいない。
押しと引きを巧く融合させた、この場においては最も褒め称えられるべき判断だった。
もちろん、それも彼が生きて地球圏に帰れたならばの話だったが。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 (裏) ―――――― ガンダムネタがやりたくて ――――――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
『何故』とか『どうして』とかの自問自答は聞き飽きた。
加えて、そんな事を訊かれたって俺には判らない。
記憶に在る俺の姿は平々凡々たる一般市民の高校生男子だった。
そんな俺のさしあたっての脅威は、来週末に控えていた数学の総復習テストだけだった。
つまりは判る訳が無いのだ。
 
何故にこの俺がMSに搭乗して宇宙に居るかなど。
加えて言えば、見ず知らずの艦隊から特盛りツユだくでミサイル攻撃を受けて居るかなど。
いくら考えたって、判る訳が無いのであった。
 
考えて判らないものは、感じるしかない。
それがドラゴンへの道だ。
一人納得した彼は、視点を定めずに前を見据える。
恐ろしいほどの弾幕が迫っていた。
お腹いっぱいだ。
 
「向こうの艦長は俺に恨みでもあるのか?」
 
小さく呟き、もう一度前を見据える。
不思議な事に、撃ち抜くべきミサイルの位置が手に取るように判った。
今度は三つ。
 
「ここっ! そこっ! そして最後っ!」
 
操作した覚えも無い機械でのピンポイント射撃を、何故か彼は恐るべき精度でこなしていた。
本人すらその事に自覚は無い。
ただ、彼が成す事は一つしかない。
 
「死なない為に殺す。 これは自然の摂理だぜ?」
 
何度目かのミサイル攻撃は最早残りカス同然になっていた。
間を潜り抜けるのは造作も無い。
スラスターの出力を微調整しながら、徐々に敵艦との距離を詰める。
焦りは禁物だ。
 
と、視界の隅に一筋の光が見えた。
数瞬の後にそれはこちらへと向かって―――
 
「ちぃっ!」
 
ミサイルとは弾速が桁違いだ。
紙一重でそれをかわすと、避けた先にもう一条の光が飛び込んできた。
回避行動の先読みをしての時間差攻撃とはな。
 
「やるっ!」
 
戦術の基本とは言え、奥技は基本の中に在りだ。
ゼロコンマ一秒の猶予で、バーニアを逆噴射。
慣性をギリギリで制御し、なんとか敵の姿を視界に収める事が出来た。
どうもレーダーは判り辛い。
 
「三機……統制の取り方はやや雑だな」
 
正三角形を描き、等速で接近してくるGM。
無闇にビームを乱射しない辺り、なかなかに訓練された操縦士のようだ。
 
「だが……その腕前、未だ未熟!」
 
微速前進から、一気に出力を全開にした。
軋む機体と、期待以上の動き。
右手と左手の操作を完全に独立させ、片腕にはビームライフルを、片腕には高出力のビームダガーを。
包囲されて長引かされてはこちらが不利だな。
さっさと沈めるとするか。
何も判らない筈の彼は、それでも無意味な自信に満ち溢れていた。
むしろ自分の発言やら行動やらに酔っていた。
 
三方向に、ほぼ同時にダガーを投げ放った。
元より当てる事は目的としていない。
当然のような動作でそれを避けるGMの一体に狙いを定める。
一投目を余裕で避けた先に、先読みでもう一つダガーを放つ。
今度は、当てる事を目的とした。
一投目の体勢の崩れを15%とするならば、二投目での崩れは68%まで上昇した。
体勢を半分以上崩させたという事は、敵MSの中心部を狙えば攻撃が外れる事は無い。
加えてダガーの軌跡に目が馴れている操縦士の運動神経系と、三機の中で自分だけが狙われていると言う心理状況。
全てを足せば、答えは自ずと判るであろう。
 
「黄泉路で煙草を吹かして待ちな。 残りの二人も直ぐに逝く」
 
ビームライフル一閃。
慈悲も戸惑いも無く、彼は一機のGMと一人の人間とを閻魔の元へと送りやった。
 
「アイーダ! アイーダぁ! 畜生! 死神め!」
「止せ! 単機の対戦じゃ分が悪い!」
「親友の死を目の当たりにして引けと? そんな事が出来るなら俺は今ここに居ない!」
「どうでも良いが、殺すぞ」
「「っ!?」」
 
避け様が無かった。
GMが大破した爆炎の中から、先に鍵爪が付いたムチ状の『何か』が音もなく襲い掛かる。
そしてそれを追うように、ビームナギナタを構えた黒い死神が姿を現した。
出力全開。
そもそもが機体性能自体に雲泥の差があった。
更に輪をかけてパイロットの腕の差。
GMには最早打つ手など残されていなかった。
 
直撃もクソも関係無い。
脚部に巻きつかれたロッドから流された爆発的な高圧電流が、一瞬にしてGMの機動系部位を破壊に追い込む。
致死量の電圧に死を覚悟して、それでも尚パイロットのその目は、最期の瞬間まで閉じられる事は無かった。
 
「地獄で遭ったらアイーダと二人でタコ殴りにしてやるぜ、死神め」
「生憎と俺は無信教でね。 死の後は無に帰す事を願っている」
 
斬。
黒いMSは身動きすら封じられたGMを、一縷の迷いも無くナギナタで両断した。
小さく電気系統のショート音を残してから爆発するGM。
その光がまさに一人の人間の命が散った事を示すものであるにも関わらず、彼は殆ど無関心に最後のGMへと距離を詰めた。
 
「白旗を揚げて見逃す気はあるかい?」
「残念ながら、不殺の信念は無い。 降伏されたって困るんだ。 黙って死ね」
「ふん。 お前のような冷血漢に天罰が下りますように」
「大きなお世話ありがとうよ、戦争をここまで生き抜いて来た殺人鬼め」
 
もう一度、斬。
真っ二つになったGMが爆破するよりも早く、彼はカシス少佐が繰る戦艦へと全速前進を始めた。
 
十五分後、たった一機のMSにマゼラン級戦艦一隻と五機のMSが墜とされた事が連邦軍本部へと打診された。
 
 
 
 
 
 
 
* * *
 
 
 
 
 
 
あー、思い出した。
そう言えばこのMSは俺の愛機じゃないか。
道理で手足の様に動くと思ったら。
 
そんな事を思いながら、モノセンサーに映し出されたMSの手の平をわきわきと動かしてみる。
ちゃんと動いた。
 
「黒いMSのパイロット。 良かったら乗っていかないか?」
 
どこかからか通信が入った。
電波の受信方向を向くと、そこには味方の補給艦隊が居た。
てか、今の今まで気付かない俺もどうかと思うけどな。
 
「それはありがたい。 俺の相棒も腹が減っているみたいだ」
「O.K 三番デッキから着艦してくれ」
「らじゃ」
 
軽い返事をし、船に向かう。
その頃にはもう、彼の中にある違和感は完全に消え去っていた。
 
 




* * *
 
 
 
 
 
 
「ドズル・ザビ中将配下 第3遊撃部隊隊長 相沢祐一少佐だ」
「はっ。 私はこの艦で整備を担当しているカルア=ジップです!」
「ああ、そんな敬礼とかしなくていいよ。 もっと気楽に行こう」
「は、はぁ」
「ほんじゃ、俺はちょっとそこら辺をウロウロしてくる」
「あのっ。 艦長が直々に礼を言いたいと仰っておりました」
「礼? 何の?」
「相沢少佐殿が我が艦を連邦艦隊のミサイルから護り通してくださった件です」
「………ああ、なるほど」
 
納得した顔をして頷くが、実際のところ祐一にはそんな事をした覚えは無い。
自分に向かってきたミサイルを討ち払っただけで、その後ろに味方艦隊が居た事などこれっぽっちも気付いていなかった。
だが、売れる恩は売っておいた方が後々何かと役に立つ。
これを狡賢いと思うか思慮深いと取るかは、人それぞれである。
 
「艦長は艦長室に居るんだよな」
「いいえ、今はあなたの後ろに居るわよ」
「……なーんか聞き覚えのある声がするんだが、俺の気の所為かな、カルア整備士殿」
「あの、気の所為ではないと思われるのですが」
「そうか、やっぱり気の所為か。 いかんいかん、ちょっと疲れているみたいだ」
「カルアさん。 その黒いMS、今すぐ解体して宇宙の藻屑にしちゃっても良いわよ」
「はい。 いえ。 え?」
「香里。 整備士をいじめるなんて可哀想だろ」
「可哀想だと思うなら始めから巻きこまなければ良いじゃない」
「それが出来るなら苦労はしない」
「何で偉そうなのよ」
 
そこで、くすっと笑って。
 
「久しぶりね、相沢君」
「久しぶりって程でもないだろう。 中立コロニーで同窓会をしてから二ヶ月も経ってないぞ」
「それでも。 再会した時は枕詞として久しぶりって言うものなのよ」
「ほんじゃ、久しぶりだな、香里」
「ええ、元気そうで何よりだわ」
 
二人はがっちりと握手を交わした。
 
相沢祐一。
士官学校始まって以来の問題児。
悪友の北川と組んでは、校内の風紀を乱す事ばかりをやっていた。
一番有名だったのは、戦闘シュミレーターのデータ改竄。
敵のMSの頭部が全て自軍の最高司令官、ギレン・ザビその人の顔になっていたのだ。
急に成績の上がった生徒達を誉めつつ、教官が不審に思ってモニターを見て、爆笑した。
爆笑したが、一歩間違ったら自分が不敬罪で首を飛ばされてしまう。
全士官生総動員で犯人探しをした所、意外とあっさり犯人は見つかった。
言うまでも無い、祐一と北川だ。
決定打となったのは、士官学校次席の久瀬による密告。
二人は罰として一ヶ月間の倉庫整備に当たらされた。
もっと重罪になるかと思われたが、あまり大事にすると上からの視察があった時に困る。
結局はそこまで考えての二人の行動だったのだが、教官はそれには気付かなかった。
この事件以来、祐一と久瀬の仲は悪い。
 
誰が思ったであろうか。
『あの』相沢祐一が、今や少佐と言う地位まで上り詰めて、更に上の階級までも約束されているような地位に居るなどと。
おまけに、自分専用のMSまで用意されるようなエース級パイロットになって居るなどと。
 
美坂香里。
士官学校始まって以来の優等生。
主にその手腕は航海術と戦略的権謀術数に長けていた。
そして、何故か学校始まって以来の劣等生である北川と祐一と仲が良かった。
幾度も彼等の悪戯(と言えるほど規模が小さい訳ではない)の目論見を潰し、幾度も彼等の悪戯に裏をかかれて悔しがった。
一番有名だったのが、三ヶ月先までの戦局を見通した論文と軍を実際に動かした場合のデータ。
ノストラダムスの再来か、いや、予言ではなく予見だ。
その論文に書いてあった戦局はその悉くが実際のものとなり、士官生はおろか教官までもが香里の頭脳に驚愕した。
 
誰が思っただろうか。
『あの』美坂香里が、本来ならば軍の中枢に居てもおかしくない頭脳の持ち主である彼女が、一介の補給艦の艦長に落ち着いているなどと。
おまけに、士官学校を卒業した後も祐一とつるんでいるなどと。
 
 
 
 
 
* * *
 
 
 
 
「今の状況は?」
「別に注意するべき船影は捕らえてないわ。 このままの推力で前進してれば三日後にはテキサスとランデブーよ」
「そりゃ結構だ。 ついでに俺と砂漠の地でランデブーと洒落込むか?」
「ご冗談を、相沢少佐殿」
「やめろ、その呼び方」
「せっかく貰った階級を否定するの?」
「大将になったら自慢してやるよ」
「そんな事になる前に戦争が終わってる事を願うわ」
「同感だ」
 
湯気の立つコーヒーを一口、喉を湿らす程度に含んだ。
うむ、苦い。
 
「ところで、何であんな所に居たの?」
「ん?」
 
同じくコーヒーカップを口につけた香里が聴く。
その仕草は、むしろ味よりは薫りを楽しむと言った感のあるものだった。
 
「んー、それが俺にも定かじゃないんだよな。 多分ドズル中将から直々に言われて来たんだと思うが」
「MS一機で戦闘宙域を散歩して来たって言うの?」
「それ以外に説明のしようが無いんだ。 捜索命令が出されていない所を見ると、ちゃんとした作戦上の行為だと思うぞ」
「作戦を忘れること自体、懲罰モノよ?」
「途中で寝てた所為かな。 どうにも記憶がハッキリしない」
「寝てたですって?」
「気がついたらミサイルが俺に向かって飛んできてた。 いやー、びっくりしたぞ」
「……普通死ぬわよ」
「死ななかったから、ここに居る」
 
自身満々に言ってやった。
香里が呆れた表情を見せていたのは、多分気の所為だと思う。
 
「ねぇ、連邦軍の『白い奴』って知ってる?」
「ん? 確か地球圏でやたら張りきってる奴だろ?」
「この前、宇宙に上がって来たらしいわよ」
「マジか?」
「マジよ」
「情報ではジャブローにシャア大佐も向かったはずだぞ」
「それでも、よ」
「……そこまでか」
「宇宙に来たなら、真っ先に狙われるのはソロモンじゃなくって?」
「ふん。 ドズル中将が死ぬってか? たかが一機のMSに何が出来る」
「『たかが』一機のMSで生き抜いてきた相沢君らしくない台詞ね」
「………」
 
軍内部でも相当に重要な部位に位置する新造MSの試作運用テストパイロット。
俺も士官学校生の頃はその響きに憧れたものだ。
だが、聞こえは良いが要は軍のモルモット。
いつ不具合を起こすかも判らない機体に乗せられるなんて、兵卒の身にしては負担以外の何物でもない。
いや、性能の良い機体に乗れるのは嬉しいんだがな。
 
「白い奴よりも、量産型の奴の方が怖いよ、俺は」
「そうなの?」
「倒しても倒してもキリが無い。 まだ一機倒すだけで戦局が変わる白い奴の方がマシだ」
「自分なら倒せるって言い方ね」
「俺じゃ倒せないって言い方だな」
「自分で言ったのよ。 シャア大佐ですら、ってね」
「……ニュータイプってか」
「可能性は否定できないわね」
「そう言えば………北川もソレっぽかったよなぁ」
「………」
 
一瞬だけ、香里の表情が凍った。
見逃してしまいそうな些細な時間だったが、俺にはその感情の動きを先読みできるだけの理由があった。
だから、見逃しては居なかった。
 
「話題、変えようか」
「……出来れば」
 
北川潤。
祐一と双璧を成すほどの馬鹿であり、劣等生であり、パイロットとしての腕はしばしば祐一を打ち負かす程だった。
ただ一つ違ったのは、『正義』と言う言葉に敏感だったこと。
あまり口に出したりはしなかったが、酔った時などはよく語った。
『この戦争に、俺達のやっている事に正義は有るか?』
もちろん、誰もが口を揃えて言った。
『自分たちこそが正義だ』、と。
例によって、祐一以外が、だが。
『んな事知るか。 俺が言えるのは死にたくないって本能が有る事だけだ。 その先は自分で考えろ』
冷たく言い放つ祐一に、何故か北川は決まって心地良さそうな笑みを向けるものだった。
 
考えに考えた末の結果か、それとも考えすぎて頭がおかしくなったのか、考えるのが面倒臭くなったか。
それとも、地球圏に居た財閥の会長である父親の政治的取引の駒となったのか。
気がついたら、北川は連邦軍に居た。
 
初めて戦場で遭い見えた時、俺達は違いに叫んだ。
自分達の『正義』を。
 
『こっちに来い、相沢』
『馬鹿を言うな! 戻ってくるのはお前の方だろ!』
『俺達はお前を包んでやれる。 だがジオンはアースノイドと言うだけの理由で俺達を受けつけはしないだろう』
『包むとか包まないとかっ! お前が居るべき場所はこっちだろう!?』
『今は、こっちだ』
『目ぇ覚ませ馬鹿野郎!』
『目を覚ますのはお前だよ相沢。 そもそもこの戦争自体がジオンの傲慢から始まってるんだ』
『どうだって良い! そんな事はどうだって良いんだ! ただ、俺はお前を撃ちたくないだけだ!』
『だからこっちに来いと言っている』
『仲間はどうする! 香里は! 栞はどうする!』
『連れてくれば良い』
『友人を連れてくればその友人が、親が、知人が絡みつく。 人の輪なんて何処まで行ったって途切れる訳が無いだろう』
『何処かで切るしかないんだよ。 それが条理だ』
『……それがお前の正義かよ』
『俺の大好きな奴等がそれで護れるのなら、正義だ』
『だけどそれじゃ俺の大好きな奴等は護れない!』
『相沢ぁ! 俺だってお前を撃ちたくねぇんだ!』
『っ!?』
『頼む………こっちに来てくれ』
『………俺は……捨てられない』
『相沢ぁ!!』
『お前が帰って来れば元通りなんだよ北川! 何で判ってくれない!』
『俺にだって捨てられないものが有る! 地球にだって俺の大切な奴は居るんだ!』
『………次に会う時は……敵なのか?』
『………今の瞬間からだ』
『…………何でだよ………』
『……戦争だからだ』
 
「……馬鹿野郎」
「………」
 
管制塔に響く、俺の呟き。
小さく声に出してしまっただけの言葉だけど、多分香里にも聞こえてしまっただろう。
 
 
 
 
 
 
* * *
 
 
 
 
 
 
船室で寝ていた俺を叩き起こしたのは、無機質な電子音だった。
半分以上寝ている頭を何とか叩き起こし、部屋の隅に掛けてあるインターフォンを手に取る。
 
「はい、居酒屋『相沢亭』です。 宴会のご予約ですか?」
「何馬鹿な事言ってるのよ!」
「んー? その声は香里か」
「レーダーが反応を捕らえたわ。 急いで管制塔まで来て頂戴」
「……了解」
 
やれやれ、なんて最悪のモーニングコールだ。
小さく一人ごちてから、寝癖を直す事も無く軍服を着る。
その硬さには、未だに馴れていない。
てか、馴れたくもない。
 
「で? どんな状況だ?」
「NE380の位置に反応アリよ。 今もこっちに向かって距離を詰めてきてる。 大きさからしてMSね」
「MS一機で宇宙空間を? 阿呆かソイツは」
「……あなたが言える事じゃないでしょ」
 
腕組みをしながらジト目で見られた。
そんな事言われたって、俺の場合はしょうがなかったんだって。
何しろ起きた瞬間には自分がどんな状況だか判ってなかったんだから。
 
「で? 敵だという根拠は?」
「信号を送っても返事が無かったわ。 勿論、それ以上艦に近づいたら砲撃も辞さないとも言った」
「たかがMS一機だろ? いくら補給艦だとは言えこの艦の火力なら退ける事は十分可能だろ」
「………」
「香里?」
「……移動速度が量産型のソレじゃないのよ」
「まさか……『白い奴』!?」
「それは状況的に見て有り得ないわ。 どんな加速装置を使ったって、ついこの前宇宙に上がってきた木馬の部隊がここまで来る事は絶対に無い」
「………俺の脳裏に浮かんだ最悪の予想を言ってやろうか?」
「結構よ。 多分だけど私の予想と一緒だから」
 
白い奴でもなければ、量産型でもない。
加えて宇宙空間を単機で爆進して来るMSなど、奴を除いては考えつかなかった。
北川潤大尉専用MS、通称【J】。
 
今までに数度戦場で北川と渡り合ってきたが、一度も確固とした決着はつかなかった。
何故なら、それらの対峙は全て自軍の作戦内での事だったから。
決着がつかないままに撤退する事を余儀なくされてきた事が常だった。
だが、今回は違う。
明らかに一対一で、その雌雄を決しようとしている北川の姿がそこにはあった。
そこに至る経緯は判らない。
功を焦るような奴でも、ましてや俺との決着の為だけに軍規を犯すほど自暴自棄になるような奴でもない。
在るのは、今ここに北川のMSがいると言う事実だけだった。
 
「俺の相棒はすぐに出れるな?」
「……出るの?」
 
何時に無く不安そうな、見方によっては泣きそうとも見える表情で俺を見る香里。
その真意は痛いほどに判るが、それでも俺はこう言うしかなかった。
 
「あいつを殺すのは俺だ。 そして、俺が殺されるのもあいつにだけだ」
「………」
「って言うか俺を呼んだのはその為だろ。 何を今更」
「………行って欲しく…ない」
「………」
 
暫くの間があり、俺は何も言わずに踵を返して格納庫へ向かって足を急がせた。
後ろから香里がついてくる気配を感じたが、それでも振り向かないままに。
 
 
 
 
眼前に聳え立つ黒い相棒。
幾多の戦いを乗り越えてきたコイツに乗る事に、何故か強い戸惑いを感じた。
理由は明確。
俺だって出来れば……
 
「なぁ香里」
「何?」
「さっき寝てるときにさ、夢、見てたんだ」
「夢?」
「士官学校とは違うんだけど多分それは学校でさ、俺と香里と北川でバカやってるんだ。 いや、バカやってんのは俺と北川だけなんだけどな」
「………」
「それを呆れながら香里が宥めて、だけど俺達は止めないで、ずっとずっとバカやって、笑って………」
「相沢……くん」
「…………テキサスついたらっ、一緒に呑みに行こうぜ! ちんけな酒場でラムでもかっ食らって朝までノンストップで馬鹿騒ぎして!」
 
悲しいほどに陽気に笑う。
隠せてない事に気付きながらも、必死で本当の気持ちを隠しながら。
 
「また……みんなでさ」
「っ………」
 
声を詰まらせた香里に涙の気配を濃密に感じ、俺は一足飛びで愛機のコックピットに乗りこんだ。
もう、迷わない。
 
 
 
「相沢祐一少佐、GUARD(ガード)、出るっ!」
 
 
 
その日、史実にも人々の記憶にも残らない、だけどこの世界で最も悲しい一つの戦いがあった。
 
その戦いがあった事を知る者は少ない。
 
その戦いでどちらが勝ったかを知る者はもっと少ない。
 
その戦いで流された涙を知る者は、誰も居ない。
 
 
 
 
 
 
* * *
 
 
 
 
 
 
「ってな夢を見たわけよ」
「リアルなんだかリアルじゃないんだか判らない夢ね」
「まぁ夢ってのはそう言うもんだろ」
 
ある晴れた秋の日の放課後。
今日も今日とて真面目に授業を受けずに寝ていた祐一が、授業中に見た夢の話をしていた。
 
「それにしても、授業中にいきなり北川君に抱きつくのはどうかと思うわよ?」
「おお、アレは俺もびっくりした。 思わず抱き返してしまったではないか」
「何でとっさに抱き返すなんて言う行動が出来るのよ」
 
呆れた香里の突っ込みが入り、北川が自分でも判らないと言った表情で首を傾げていた。
そう、祐一は上記のような夢を見ていたため、覚醒した瞬間には意識がまだ現実世界には戻ってきていなかった。
戦場の緊張感、親友との望まぬ死合、決着。
それなのに、目の前にはのほほんとした顔で北川が居た。
抱き着くしかないだろう。
 
『北川ぁっ!』
『お? おぉ? 何だ?』
『この馬鹿野郎! もうぜってー放さねーからなっ! もう……何処にも行くんじゃねー! ずっと俺と居ろ! 死ぬまでだ!』
『……スマン相沢っ! 俺が…俺が悪かった。 俺ももう、お前とは離れない。 離れたくないぞっ!』
『北川ぁっ!』
『相沢ぁっ!』
 
突如として始まった寸劇に、教室中が静まり返った。
だがそれも10秒間だけ。
その後はもう大変な騒ぎになったのは、言うまでも無い。
学内でも相当な人気を誇りつつも、誰とも一線を超えた付き合いをしていない孤高の独身貴族、相沢祐一。
付き合いの良いひょうきん者で通りながらも、時折見せる真剣な眼差しと熱い心意気が密かな人気を博す漢、北川潤。
そんな二人が人目も憚らずに抱き合ったのだから、さぁ大変。
要約すると、ボーイズラブがホモセクシャルでだから彼女を作らなかったのねでもあの二人なら良いかもうそー勿体無いよって言うかどっちが攻めでどっちが受け? だった。
 
現こそ 夢幻の 如くなり 此と彼に掛かる 橋ぞ妖しき」
「はて美坂、その心は?」
「あたし達の世界から言えばあっちが夢。 あっちの世界から言えば、こっちが夢」
「なるほど。 覚めてしまえば否応無しに向こうを夢としか言えないもんな」
「向こうの世界は向こうの世界で実在しているのよ、きっと」
「だとすると、向こうの俺はMSに乗って相沢と戦ってるのか。 いやー、それもなかなか燃える展開だな」
「いや、でもやっぱさ」
「「ん?」」
 
妙に真剣な表情で二人を見つめる祐一。
背景には真っ赤な夕日と、それを照り返しながら舞う落ち葉。
開け放たれた窓から吹き込む風によってはためくカーテン。
揺れる長髪。
本気の笑顔。
意図した訳でもなく、最高のシチュエーションだった。
 
「この世界で、お前等とこうやって仲良しで居られんの。 何か嬉しいわ」
 
真正面からそんな事を真剣に言われた二人は照れる照れる。
明らかに夕日の所為でもなく顔を真っ赤にし、互いの顔を見合わせた。
そのまま数秒間、そしてどちらからともなく笑い。
 
「私もよ。 相沢君と仲良しになれて嬉しいわ」
「偶然だな。 俺も美坂や相沢と友達で居れて良かったと思うぞ」
 
中学生日記も裸足で逃げ出すかと思われる程、80年代青春真っ盛り熱血ラグビー先生ドラマ風味だった。
だけどまぁ、たまにはそんなのも良いか。
祐一以外の二人は、多少の恥ずかしさとそれを凌駕する高揚感を胸に、その張本人である祐一と肩を組んだりしてみた。
零距離で笑い合ってみた。
何だか、妙に楽しかった。
 
そんな秋の夕暮れ。
教室。
笑い声。
 
 
 
 
 
 
 
「………入りづらいなぁ…もー」
 
廊下では部長引継ぎ会を終えた名雪が、場の雰囲気について行けずにもどかしそうに佇んでいたとか。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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ジオン公国軍次期主力MS候補汎用試作型第参号機 MS-14.5【GUARD(ガード)】 
 
装備 ビームライフル ビームナギナタ(ツインビームソード 分離可能) ビームダガー×10 R・H・H・R×2
 
カラーリング 黒
 
解説
一年戦争末期にMS-06ザクの後を継ぐ量産型MSとして正式採用されて開発されたのが、MS-14ゲルググ。
MS-14ゲルググと次期主力MSの座を争った事で有名な、MS-15ギャン。
後世に残る一年戦争史には、ジオンの次期主力MSの候補はこの2機だけであったと記されている。
だが、ジオニックフロント社ではこの両機の他に現在では幻となっている第参号機を造っていた。
それが、相沢祐一少佐の乗るMS-14.5の【ガード】である。
【GUARD】とは、本来の意味である『守護者』の意味合いも然る事ながら、開発コンセプトの頭文字がその名前を構成している。
Grand(雄大な・気高い)
Unbroken(屈しない)
Absolute(絶対)
Reduce(〜の状態にする)
Decease(死去)
即ち、『何者にも絶対に屈しない気高さを持ち、敵対する相手を絶命の状況に追い遣る事を目的としたMS』である。
試作機である為、コストを度外視して機体性能のみを追求している。
祐一専用にチューンナップされた機体であり、一部指揮官用に配備された高機動型ゲルググに勝るとも劣らない高性能を有していた。
腰部スカート内と脚部に大型スラスターを装備し、高機動性と強力な推進力を保持。
更に背部に増速用ブースターと高機動型バックパックを装備し、戦闘可能時間と推進力の限界を大幅に増加。
その所為で他の候補機2機が装備しているようなシールドは装備出来なかったが、その必要も無いほどの恩恵を機動系から蒙っていたと言える。
黒いカラーリングを施し、他のMSが装備していない独自の武器、ビームダガーを装備している。
また、MS-14ゲルググにも採用されたビームナギナタは祐一の独断でリミッターが解除されているため、任意で通常の攻撃範囲の1.6〜2倍まで刃の部分を伸ばす事が可能である。
もっとも、エネルギー残量がすぐに無くなる事は言うまでもないが。
RX-78ガンダムの出現によってMS同士の戦闘においての白兵戦能力が問われる事となった背景があるため、ただでさえ次期主力候補機の近接戦闘能力は高い。
その上この機体は開発当初に作られた試作機である為、そのコンセプト(近接戦闘能力の重要視)が量産機よりも顕著に見られる。
陸上での白兵戦で無双の強さを誇っていたMS-07グフの装備していたヒートロッドを強化したR・H・H・R(レッド・ホット・ヒート・ロッド)を装備している事からも、それは明らかである。
単機での有視界戦に於ける戦闘能力は当時のジオン随一であった。
操作系統は非常にシビアで、それこそ指の各部まで動かせる使用になっているが、それを自在に操れるのは祐一只一人。
それ故に時期主力量産期の座を逃したとも言われている、メカニック泣かせの逸品である。
MS-12ギガン、MS-13ガッシャ、MS-14ゲルググ、MS-15ギャン
それにMS-14.5ガードを加えた五機は、ジオニックフロント社の中では『Gの世代』と呼ばれている。
【黒依の死神】の異名を取り、戦場での邂逅は死を意味するとして連邦兵には恐れられていた。
 
【ビームダガー】
ビームサーベルの縮小版と考えれば判りやすい。
実弾兵器よりも貫通力が高く、光学射撃武器よりも乱射が利く。
この利点をとことん追求していった結果が、後にビームマシンガンと言う脅威の兵器の開発に繋がっている。
作中での祐一は飛び道具として使っていたが、そう湯水の如く投げ捨てて構わないような安価な武器ではない。
事実、他のMSにはコストの関係で装備が成されなかった幻の武器。
主に重力の干渉を受けない宇宙戦専用の武器(投擲の場合は)であり、使い手次第では接近戦用の武器としても使用できる。
これも勿論リミッターが解除されていて、二分強の時間だけならビームサーベルの半分くらいの射程まで刃を伸ばせる。
 
【R・H・H・R(レッド・ホット・ヒート・ロッド)】 ※Red-hot(灼熱の)
ジオンの傑作機、MS-06ザクUを全ての面で上回る事を念頭として造られたMS-07グフ。
特に白兵戦能力ではMS-06を歯牙にも掛けない性能を発揮し、そのMS-07グフが装備していたのがヒートロッドである。
GUARDが装備しているR・H・H・Rは、MS-07以外の機体が装備しなかったヒートロッドに技術班が目を付け、宇宙戦用に再改良したものである。
出力は勿論の事、射程距離も大幅に向上。
何よりも一番の変更点は、ロッドの先端部に取り付けられた鍵爪と小型推進ブースターである。
この小型ブースターの装着により、放出されたロッドの軌道をコクピットで随時任意に修正可能。
振り回すしか出来なかった初期のヒートロッドに比べ、格段に武器としての完成度が上がっていた。
だが、このR・H・H・Rの操作は非常に難解を極めた。
自機の操縦の他に独立した動きをR・H・H・Rに与える事が出来るパイロットなど、某少佐(ジャブロー以降は大佐)ですら厳しいと思われる。
突き詰めれば殆どサイコミュ。
脳波で操れない分だけ、R・H・H・Rの方が操作は厄介であると言える。
 
 
 
 
 
 
地球連邦軍戦略的単機強襲離脱型汎用試作MS SRX-00 【J】
 
装備 ビームライフル ビームサーベル ヒートブレード ビームガン(盾内部に装備) 60mm頭部バルカン×2 クロウシールド(鈎爪型の盾)
 
カラーリング 金
 
解説
V作戦の最終目的として量産化を推し進められていたRGM-79ジム。
北川の乗っている機体は量産型のソレではなく、それとは原型を別として設計された言わば新型である。
デュアルセンサーやコア・ブロックシステムの採用、ルナチタニウムの使用など、その性能は後に量産化されるRGM-79ジムよりもむしろ、RX-78ガンダムに近いものであった。
量産型RGM-79ジムのシステムを大元としているが、総合性能を向上させるべく、ジェネレータ強化、バックパック、スラスター強化による機動性向上、照準性能を上げるべくバイザーの追加等がなされている。
主武装も通常のRGM-79ジムが装備しているビームスマートガンではなく、RX-78ガンダムと同出力のビームライフルを装備。
開発された段階(ジオンのジャブロー攻略戦以前)では、ジオンのMSで対抗出来得るほどの性能を持った機体は存在していなかった。
力量不足の連邦パイロットを補佐するためのサポートシステムを一切排除し、その分の情報許容量を全て各部神経系の処理能力に回している玄人仕様。
北川以外に乗りこなせるパイロットは、経験不足の見習い兵が多数を占める連邦内では極稀だった。
白兵戦での両手武器装備及び機動性を重視したため、RX-78ガンダムやRGM-79ジムが装備しているような大型シールドは装備しておらず、右上腕部に流線型の盾があるのみだった。
その盾も当然普通のものではなく、装備位置を変えれば手甲として攻防に渡る性能を発揮する。
更にその内部には隠し武器として、高出力のビームガンが内蔵されている。
サイズを極小にした為に一発限りの隠し武器(当時はセルフチャージシステムが確立されていなかった)となり、余程の緊急時でないと使用されなかったと言う。
そもそもの開発に到る経緯は、次の様になる。
RX-78ガンダムの戦場での鬼神のような活躍を一部上層部が認めた結果、RGM-79ジム一個中隊に一機の割合で全ての性能に突出したエース機を配属させる事が地球連邦軍上層部の総会で立案された。
勿論RX-78ガンダムを全ての部隊に配属させる事は資源、技術、時間、全ての面において事実上不可能であったのだが、その計画の試作段階として造られたのがこの【J】である。
だが、当時の地球連邦軍ではRGM-79ジムの量産化を急いでいた派閥の方が大部分を占めていたため、【J】は地球連邦軍の総意として造られた訳ではない。
その製作には連邦軍正規の生産ラインから外れた『KKK』(倉田・北川・久瀬の統合MS研究組織)が独自に携わってロールアウトした為、実際に戦場で共闘した部隊員以外の者は【J】の存在すらも知らない。
これは、【J】が配属された事によって戦果が向上したと云う『結果』を形にしてから改めて計画を上層部に持ちかけようとしていた、連邦政府内急進派の意見を汲んだものであった。
敵味方通じてその通称は【J】
パイロットである北川のイニシャルか、十八世紀ロンドンの殺人鬼か、切り札の意か。
その真意は定かではない。
 
【ヒートブレード】
通常のジムが装備しているビームスプレーガンよりも強力なビームライフルを装備している【J】
ガンダムに性能が近いとは言うものの、やはりジェネレーターの出力不足は否めず、ガンダムの様に予備のビームサーベルを装備する事は不可能だった。
それでもと融通の効かない北川が技術班に無理を言って装備させたのが、このヒートブレード。
威力こそ光学兵器に劣るものの、使用上の負担とリスクの少ないヒート系の武器ならば良しと技術班が判断した上での装備だった。
ヒートブレードは背部ではなく腰付近に装備。
抜刀から連結された胴薙ぎの一撃は、日本古来の『居合』に通じるものがあったとか。
片刃で細く微妙に湾曲した形状から、本人や技師達は『KATANA』と呼んでいた。
 
 
 
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後書き
 
夢落ちに逃げるなんて卑怯だと思います(じゃあやるな
それと、正直言って本編よりもMS解説書いてる方が楽しかったのは秘密です。
『B』、『D』、『G』と同じ世界のお話だったり。
没題は『Gの意志』です。
 
えーと、MS解説に本気で突っ込むのは止めてください。
泣きます。
 
では。